研究課題/領域番号 |
26702038
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
王 丹 京都大学, 学内共同利用施設等, 特定准教授 (50615482)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | RNA dynamics / spatial regulation / simulation / mathematical models |
研究実績の概要 |
本研究では「in vivo RNAイメージング」の基盤技術を開発し、学習過程で起きる脳内RNA変化をリアルタイムで定量的、動的に計測することによって、「学習ーゲノム」相互作用による長期記憶や脳の可塑性における分子作動機構を解明することも目的としている。
そのために、「生きた」脳で「1細胞」でのRNAの振舞を観察するための新規蛍光イメージング手法を開発することが急務である。本研究で、生きたマウス脳内へ無害の点灯型蛍光オリゴプローブを導入することによって、細胞核内における特定のRNAの動きを可視化することに成功し、その成果は英国の科学雑誌Nucleic Acids Researchの2015年10月号に掲載された。新しいイメージング手法は、遺伝子操作を必要としない、生体内におけるRNAの集まりの出現と消失について観察できる利点があり、組織内におけるRNAの挙動と培養細胞における挙動が異なることを見出している。しかし、学習時におきるRNA動態変化の検出実験を行うためには、さらに乗り越えないといけないハードルが残っていた。1. 2光子顕微鏡によるin vivoイメージング;2. 低発現遺伝子(1細胞につき数コピー)の検出;3. 核内にとどまらず細胞質でのRNAイメージング;4. 蛍光シグナルの定量評価が課題として残っていた。過去1年は、この4つのハードルを乗り越えるための実験を実施した。具体的には、2光子顕微鏡によるイメージングの習得、化学修飾によるプローブの細胞内局在の制御、数学者と共同研究による実験データーに基づいたRNA蛍光変化のシミュレーションを実施した。さらに1細胞を対象とするsingle-cell electroporation方法を確立し、その成果をJ Microbiol Methods, 2016に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は非常に新規性が高く先行研究が少ないため、システムの整備からスタートし、プローブの導入、認識特異性の評価、蛍光ーRNAコピー数の定量評価すべてのステップにおいて、現存の方法論を検討した上で必要に応じて新たな方法を確立する実験を実施してきた。具体的には、modified single-cell electroporation技術を確立し、さらに時間軸による蛍光変化のシニュレーションを共同研究で行った。当初予期していた技術の難関がモチベーションとなった幾つかのプロジェクトが発生して、新たなコンセプトに基づいた蛍光プローブの開発や、プローブ改良のために自然におきる内在性RNA修飾による機能制御を検証するなど研究の幅が広がった。最終年度ではここまで築いた技術の進展を活用し、学習に伴う生体内RNAイメージング実験を実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究プロジェクトを実施するために、体内におけるプローブの安定性を高める改良方法を探索する研究を行った。その中で、同じ化学組成のプローブにおいても、細胞内局在の場所によって半減期が異なることや人工的に施したRNA化学修飾は安定性を高めるに有効であることが実験結果から得られた。今後、RNAの細胞内局在や自然に起きるRNA化学修飾を視野に入れ、技術改良のヒントとなるベーシックなRNA生物学の研究を検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では新規RNAイメージング手法の開発を行って環境とゲノムの相関を検証するものである。本件の観測結果の意義について議論を重ね、論文投稿準備をするにあたって、更に解析手法、及び追試実験が必要になり、当初想定していた期間を延長する必要が出てきた。
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次年度使用額の使用計画 |
RNA in vivo ライブイメージングの追試実験に必要な消耗品の購入費用は80-90万円の予定で、投稿費用には20-30万円を予定している。
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