研究課題/領域番号 |
26703003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
辻上 奈美江 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (30584031)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 湾岸諸国 / 若者 / 教育 / 労働 / ジェンダー |
研究実績の概要 |
平成26年度前半は、単著『イスラーム世界のジェンダー秩序ー「アラブの春」後の女性たちの闘い』(明石書店)の出版に重点を置いて研究活動を行い、9月に出版することができた。同著は、女性たちが「アラブの春」で、セクシュアルハラスメントなどの犠牲になりつつも、社会の変革を担うアクターとしていかに男性優位の社会との交渉を試みたかを描いている。同著の出版によって、本研究を始めるにあたって重要な基盤を築くことができた。 湾岸諸国の女性の教育と労働、さらに社会運動との関係については、複数の論文や学会発表を通じて研究成果を発表した。なかでも、北米中東学会で発表したSaudi Women's Negotiation of Power and Space through Driving Campaignは、パネル参加者らとともにニューヨーク大学出版会の共著として出版することが確定しているほか、別の米国の出版社からも類似のテーマでの出版の可能性が浮上している。サウジアラビアのジェンダー問題を扱う研究は英語でも数が少ない。英語での研究成果の発信については、引き続き積極的に行う予定である。 さらに本研究では、再生産領域での男女の権力関係の変化について論じることを目標としている。26年度は「アジア諸国における医療ツーリズム:現状とその課題」にコメンテーターとして登壇するなどし、生殖医療と開発の問題に取り組む研究者らと意見交換を行うことができた。27年度はさらなる開拓を行いたい。 他方で、26年度に予定していた湾岸諸国での現地調査は、実際の予定より少し遅れ、27年度4、5月に実施する予定となっている。中東地域の治安情勢が不安定であることから、引き続き治安情勢を把握しながら渡航や調査の予定を立てる必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度に実施予定であった湾岸諸国での調査が27年度4~5月へと若干遅れているものの、そのほかの研究については単著の出版に加え、論文執筆や学会発表などの機会にも恵まれ、ほぼ順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究申請時以降、中東の地域情勢はかなり大きく動いた。「アラブの春」は、中東地域のジェンダー関係を分析するための重要な出来事であり分水嶺であり続けるが、同時に現在、その先の議論と理論の構築が求められている。平成27年度以降は、中東地域の政治研究、地域研究、文化人類学研究者らとの意見交換や研究交流を引き続き進めつつ、「アラブの春」の先の議論へとシフトしていくための方策を探りたい。 今後の研究では、再生産領域における男女の権力関係についてより詳しく調査・研究することになる。中東地域のジェンダー研究の第一人者のひとりであるMunira Charradとの研究交流などを通じて、本研究が重点を置く湾岸諸国の男女の権力関係を研究する上で、拡大家族における女性のネットワークについて着目することに価値がありそうなことがわかってきた。今後の研究では、これらの視点も採り入れながら研究を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に予定していた湾岸諸国への出張が27年度にずれ込んだため、26年度の使用額が当初の計画よりも少なかった。また学会発表などにかかる旅費、書籍代などついては、他の研究費からの支出が可能であったため、支出が抑えられた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の未使用分は、27年度に行われる調査時に旅費、調査補助アルバイト謝金などとして支払われる予定である。
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