「アラブの春」後の変革期における中東地域の若者男女の教育・労働、そして再生産領域におけるジェンダー関係について解明する本研究の最大の成果は、単著『イスラーム世界のジェンダー秩序ーー「アラブの春」後の女性たちの闘い』(明石書店、2014年)として出版された。同書では、エジプト、チュニジア、モロッコ、サウディアラビア、バハレーンにおける「アラブの春」に際する女性の社会運動への参加とそれらが政策決定に与えた影響、「革命」の場におけるレイプ事件などの性暴力の状況を精査した。 同書の出版後、本研究の主な調査地であるサウディアラビアでの調査の過程で、再生産領域におけるジェンダー関係を解明するためには、女性の教育や労働、政治参加などの状況に加えて、消費や女性による起業活動にも着目することが有効であることに気づいた。そこで、「サウジアラビアの女性の消費と企業ー商業インフラの発展と女性化に関する考察ー」『中東協力センターニュース』2016年11月号などの研究を公開し、消費と起業から女性のエンパワーメントを見つめ直す作業を行った。公的領域における男女平等に偏重したリベラル・フェミニズム的発想から脱却するための重要な一歩を踏み出すことができた。 同時に、「アラブの春」の顛末を別の角度から眺めれば、ISの出現や大規模な難民の発生などの現象も起きた。「テロリズムとジェンダーーー「イスラーム国」の出現と女性の役割」塩尻和子編著『変革期のイスラーム社会の宗教と紛争』(明石書店、2016年)や「シリア難民女性の演劇:癒しの実験とジェンダー規範」山内昌之編著『中東とISの地政学』(朝日新聞出版社、2017年)などを通じて研究成果を公開した。
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