本研究では、19世紀の功利主義思想家の知的営為をジェイムズ・ミルを中心とする人的ネットワークという枠組みの中で捉え、その多様性と統一性を描き出すことを目的とした研究をおこなってきた。 最終年度にあたる今年度は、これまで作業をすすめていたジョン・スチュアート・ミルの政治思想に関する英文著作を公刊した。また ジョージ・グロートの若い時期の古代アテネ論について、①ミットフォード、ギリーズからサールウォール、グロートにいたる19世紀前半の古代ギリシアをめぐる知的コンテクストにおける位置づけ、②邪悪な利益や世論法廷といった概念をとりあげながら、ジェレミー・ベンサムやジェイムズ・ミルとの思想的影響関係、③理論的特質と実践的含意、という3つの論点について検討し、グロートの議論の特質を分析した。また、19世紀の道徳哲学(道徳科学)の組織化過程において功利主義思想の受容・変容を、ケンブリッジ大学を主な題材としながら、①ペイリーの神学的功利主義の位置づけ、②ジェレミー・ベンサムおよびジョン・スチュアート・ミルの思想の影響力の拡大、③ウィリアム・ヒューウェル、ジョン・グロート、ヘンリー・シジウィックといった道徳哲学教授職担当者の果たした思想的・制度的役割、といった点に着目し、これまで進めてきた研究を踏まえつつ、最終的にまとめた。これらの成果については、日本語論文としてまとめており、次年度以降に学会誌への投稿を予定にしている。 これらに加えて、翻訳2冊について作業を終え、来年度中に公刊されることになっている。
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