研究課題/領域番号 |
26704008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古井 龍介 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (60511483)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 東洋史 / 南アジア / 中世初期 / 農村社会 / 武装集団 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、5世紀初頭の王ナータチャンドラの土地施与文書をそのまま写して彼によるアージーヴィカ教徒への土地施与を確認した、6世紀初頭の王ヴァイニヤグプタの銅板文書を校正・研究し、周縁地域であるベンガル東部サマタタにおける農耕拡大と集落・農村社会形成を背景として成立した政治権力が、グプタ朝宗主権下の従属王権として成長して半独立化するとともに、その下で従属支配者層が形成され、行政機構を構成していく過程を論じた。また、8世紀前半の王デーヴァーティデーヴァの治世に仏教僧院で銘刻された銅壺銘文の内容を分析し、同王が支配した、カシャ族の領域を意味するらしいカシャマカと呼ばれる地域における国家形成、部族民の吸収を伴う農耕拡大および従属支配者層と農村有力者層を含む複雑な社会の形成の過程を、近刊論文にて考察した。さらに、パーラ朝下の従属支配者の多様な起源および彼らと王権との緊張関係と交渉についても論考をまとめた。こちらは、掲載時期未定ながらThe Indian Economic and Social History Review誌に受理されている。 インドでの調査では、コルカタのインド博物館、グワハティのアッサム州立博物館および古物歴史調査局、タムルクの考古博物館の所蔵する、碑文を中心とする考古遺物を調査・撮影したのに加え、パーラ朝により傭兵として用いられたカシャ族に関連して、メガラヤ丘陵の遺跡を調査し、シロンの諸博物館が所蔵する遺物、特に武具の調査・撮影を行った。 以上に加えて、ベルリン自由大学のハリー・ファルク名誉教授を招いて講演会を催し、遊牧民族であったクシャン族がバクトリアに王権を確立し、その後インドへと支配を拡大していく中で取った正当化の戦略についての議論を通して、戦士集団が政治権力を確立する上で、外来・在地の宗教伝統がその正当化に重要な役割を果たす点を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、5・6世紀北インドの宗教史にとっても重要な情報を含むヴァイニヤグプタの新出銅板文書を校訂し、その内容について包括的に議論した論文を研究者コミュニティーに提供できた上、パーラ朝王権支配下の従属支配者層の在り方と王権との関係についての包括的議論を論文としてまとめることにより、農村を支配する武装集団の中核をなすサーマンタと呼ばれる領主層の台頭、王権との交渉、上位土地権利保有者としての階層的土地権利構造への包含という歴史的過程をベンガル中世初期史の中で位置付ける展望を得られた。このことは、現在執筆中の中世初期ベンガル農村社会の変遷についての著書にも十分反映される結果となった。以上から、本研究はおおむね順調に進展しているものと結論付けられる。
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今後の研究の推進方策 |
碑文史料の読解、特に未校訂新出碑文の校訂を進めるとともに、これまでの研究成果の海外での発表および研究者との議論によるその深化に努める。具体的には、バングラデシュのジャハンギールナガル大学で開催予定の中世初期ベンガル考古学および歴史学についての国際学会にて、同時代碑文から読み取られる農業拡大・集落形成と社会関係についての考察を発表する。また、11月に予定されているフランス極東学院における講義の一環として、中世初期ベンガルにおける政治権力の変遷を、従属支配者層の在り方を軸として論じ、また新出碑文史料を取り上げて、彼らを取り巻く権力関係を碑文史料からいかに抽出するかを議論する。以上の研究発表に合わせ、バングラデシュおよびイギリス各機関所蔵碑文史料のさらなる調査を行う。また、インドにおいても現地調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度にも平成26年度と同様にバングラデシュでの調査を計画していたが、7月のダカでの事件に見られるように治安の悪化が認められたため、渡航を次年度以降に延期した。そのため、旅費としての支出を予定していた分が残存し、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には冬季のインドへの渡航および調査に加え、7月末から8月初頭のバングラデシュでの国際学会および11月初頭のパリでの講義のための渡航に合わせて、8月にはダカ、10月にはロンドンとケンブリッジで調査を行う予定である。これら三度の海外渡航の旅費・滞在費を、次年度使用額を含めた助成金より支出するものとする。
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