研究課題/領域番号 |
26704008
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古井 龍介 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (60511483)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 東洋史 / 南アジア / 中世初期 / 農村社会 / 従属支配者 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、バングラデシュ、シャバルのジャハンギール・ナガル大学で開催された国際学会にて中世初期北ベンガルの農業開発形態の変化について発表し、家族労働による小規模な荒蕪地開墾から河川流域・森林地帯への大規模開発、その停滞へと展開する長期的変化が、在地有力土地保有者層、ついで従属支配者層の台頭と、強力な地域王権の確立による在地支配の強化、それらによる在地住民の労働力動員と関連することを論じた。また、ダカのバングラデシュ国立博物館で、ベンガル銅板文書の形式と内容から農村社会を巡る権力関係を読み取る戦略について招待講演を行い、所蔵碑文を調査・撮影した。 パーラ朝支配下の従属支配者層に関する論文では、在地有力者層から知識人層、部族首長に至る多様な起源を持つ彼らが、軍事奉仕を中心とする王権との関係を通して一定の領域を支配する従属支配者となったこと、彼らと王権との緊張関係と交渉が、前者が優位に立つ中、両者間の矛盾として増大していくこと、その矛盾が大規模な反乱へと結実したことを論じた。 ヨーロッパでは、ロンドンのロンドン大学東洋・アフリカ研究員図書館で資料調査を行うとともに、パリのフランス極東学院にて招待講演を行い、グプタ朝属州支配下の在地有力者層の包含から副地域王権と従属支配者層の台頭による政治権力と農村社会との交渉と対立、地域王権と従属支配者層との交渉から階層的土地関係への後者の包摂という、5世紀から13世紀に至るベンガルの政治権力の構造変化について概観した。インドでは同様の講演をデリー大学歴史学科で行ってフィードバックを得るとともに、それに先立ってコルカタのアジア協会での資料調査および銅板文書デジタル写真の収集、インド博物館所蔵品の調査、デリーでの遺跡調査も行った。 以上に加え、5-13世紀ベンガル農村社会の権力関係および農業発展についての単著を執筆し、最終稿を出版社に提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度はパーラ朝支配下の従属支配者と王権との権力関係と矛盾の展開を明らかにする論考を公表し、またそれ含めた中世初期ベンガルの政治権力の構造変化の外観を招待講演として発表、さらには農村社会を巡る権力関係と農業開発形態の変化の関連とそれらを背景とする階層的土地関係と職能集団の体系化を論じる単著の最終稿を仕上げるなど、4年間の助成期間を締めくくるにふさわしい成果が上げられた。しかし、大英博物館南アジアセクションが改装に伴い閉鎖されていたことや、保存作業のためデリーの国立博物館の所蔵品台帳で所蔵銅板文書の確認ができなかったことなどにより、関連碑文資料の収集・校訂が遅れている。また、著書の出版に向けてさらなる作業も必要である。以上から、現在までの進捗状況はやや遅れていると判断され、助成期間の延長に至った。
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今後の研究の推進方策 |
助成期間延長後の最終年度となる次年度には、まず、研究の集大成として単著を出版するものとし、年度内出版に向け必要な作業を遂行する。それに加えて、海外での碑文資料収集に当たるとともに、中世初期東インドの従属支配者・武装集団に関わる碑文の校訂・公表を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度のバングラデシュ出張に際し、渡航費の全額および滞在費の一部が国際会議主催者により負担され、また、ヨーロッパ出張に際しても、パリでの滞在費が講演招待者であるフランス極東学院により負担された。それらによる剰余金により本年度中に再度ロンドンへ渡航し、改装後の大英博物館南アジアコレクションの調査を行う予定であったが、本課題の研究成果を構成する著書の最終稿執筆で多忙であったため、見送ることとなった。そのため、次年度使用額が生じた。以上を踏まえ、次年度にはロンドンあるいはインドでの資料調査に研究費を使用することとする。
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