研究課題/領域番号 |
26704009
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
東村 純子 福井大学, 教育地域科学部, 講師 (10465601)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 機織 / 腰機 / 織物 / ジェンダー / 考古学 |
研究実績の概要 |
古代日本では麻や絹などの織物が交換財として機能しており、紡織部門は主要な手工業の一つであった。本研究では、織物と紡織の考古学的分析から製糸・製織技術の特徴を明らかにし、生産の担い手と分業形態、交換財や貢納物としての織物の流通における社会的・文化的特質を究明することを目的としている。 なかでも、紡織具の形態分析による技術復元にもとづき、ジェンダー論の視点から生産の担い手の考察を進めた。6世紀後半の栃木県甲塚古墳から出土した機織形埴輪は2基あり、それぞれ異なる2つの腰機(輪状式原始機と地機)で女性が布を織る姿を模したものである。それは腰機による機織りが女性の仕事であるという観念のあらわれであると同時に、生業活動から生産労働への変化も示している。後の律令国家が規定する調庸布生産(地機による麻布生産)にもつながるものと考えられる。 日本の古代社会において、特に麻布は、「日常衣料-生業活動」、「貢納物-生産労働」という二面性を持ち合わせている。弥生時代に広まり、定着した輪状式原始機による機織り技術は、貫頭衣などの日常衣料製作に直結する生活技術であった。麻糸づくりや腰機による機織りは、身体で体得する技能であり、技術伝習と育児との両立において母系でつながる集団のなかでの共同作業が有利であったと考えられる。 次に、古墳時代中~後期に新たに中国・朝鮮半島から伝わった地機は、当初は渡来系氏族や豪族など一部の集団が保有したが、原始機に代わって日常衣料(麻布、近世以降は木綿布)を製織する機として女性の仕事の領域を大きく占めるものとなる。続く、律令体制下では貢納物生産のために製糸と製織の分業が進められたが、そのなかでの女性の働きについてさらに考察を深める必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
考古学的分析から製糸・製織技術の特徴を明らかにする技術論と生産の担い手についての分業論の双方を関連付け、今後の議論を展開する見通しが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、マイクロスコープを用いた織物の調査、機織具における使用痕等の調査を進め、機部材の形式と用法、糸擦れ痕等から推定される織物の素材、織り技法について検討する。以上の基礎的な分析を踏まえ、古代日本の織物生産に関して文献史料研究との総合的考察を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度以降も、出土織物・紡織具の調査を継続するため。
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次年度使用額の使用計画 |
出土織物・紡織具の調査にかかる経費として使用する計画である。
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