研究課題/領域番号 |
26705009
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
白井 述 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (50554367)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 運動視 / 発達 / 乳児 / 移動行動 |
研究実績の概要 |
ヒトを含む動物一般にとって、移動行動は、環境内に点在する様々な情報を探索し、その情報に基づいて適応的な行為を選択、遂行するために不可欠な能力である。ヒトの移動行動の制御は、視覚的な運動パタン(光学的流動)の知覚と密接にリンクしており、例えば、一般的に前方への移動時には、視野上に放射状に拡大する光学的流動(放射運動)が生じ、その放射運動の中心(焦点)は観察者自身の移動方向に対応する。これを利用して、ヒト成人の視覚系は、放射運動とその焦点位置の情報に基づいて移動行動の制御を行っている。本研究の目的は、乳幼児期から児童期までの幅広い発達段階において、放射運動処理に代表される運動視機能と移動行動の成熟の間にどのような関連があるかを実験的に検討することである。 平成26年度は、生後3~12ヵ月児と、比較群として成人を対象とした実験を実施した。前後方向への移動時に視野上に生じる放射運動を簡易なCGで再現し、乳児に呈示した。それらの運動の焦点部分と、それ以外の周辺部に対して乳児がどのような注視特性を示すかを、視線計測装置を用いて記録、分析した。その結果、いずれの月齢においても、放射運動の焦点部位よりも周辺部を長く注視する傾向がみられた。またその傾向は後退時に対応した放射運動に対してよりも、前進時に対応した放射運動に対してより顕著であった。一方成人では、放射運動の焦点部位に注視が偏向する傾向が認められた。これらの結果は、乳児と成人とでは、放射運動の視覚的な処理特性が異なる可能性を示す。また、こうした処理特性の差異は、乳児と成人では移動行動の様式や経験の多寡が大きく異なることを反映している可能性がある。 また、乳児期において運動視と形態視の機能がどのように相互作用しうるかを実験的に検討し、生後4、5ヵ月までに、それらの機能間に相補的な処理が生じうることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、乳幼児期における放射運動の焦点に対する知覚、検出特性についての実験を実施した。その結果、概ね目標とする人数分のデータを収集することができた。 それらの実験結果については、平成27年度内に、国際会議(Vision Sciences Society)で発表の予定である。 また、当初の計画を拡張し、運動視と形態視の発達がそれぞれ互いにどのような影響をおよぼすのかを実験的に検討した。その結果、それら機能間の相互作用が生後4、5ヵ月までに顕著に観察されることが示された。これらの成果については既に査読付き原著論文として国際誌(Experimental Brain Research、Perceptionなど)に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降の課題として、より年長の幼児や児童を対象に同様の実験を実施し、成人と類似の処理特性が発現する時期を特定することがあげられる。また、移動行動の発達と、放射運動の焦点を注視する(あるいは注視しない)傾向との間に何らかの関連が認められるかどうかについて、生後半年~2歳前後までの乳幼児を対象に縦断的な調査を実施することも重要な課題であるといえる。 また、運動視の補償機能(形態視による運動知覚など)の発達過程も検討し、身体運動と運動視の発達における相互作用について、より複合的な視点から理解することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験補助者の個人的事由によって、想定よりも実験補助業務時間が短くなり、謝金の総額が減少したため。また、予備実験が当初に想定していたよりも順調に進行したため、実験参加者への謝礼や、予備実験に必要な装置の準備などに関連したコストが減少したため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度に実施予定の実験について予備実験を実施する際、今年度同様に順調に経過が推移するかどうかは不明であるため、それらに要する諸々の諸経費(参加者謝礼、実験機材の調達費)として使用する。また、それにともなって実験補助者の業務も増えると考えられるので、それに対する謝礼に充当する。
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