研究実績の概要 |
視覚において、「目の前に存在する物体」の表象と「消え去った物体」の保持は、それぞれ知覚と記憶という異なる処理段階として、従来独立に扱われてきた。 しかし、研究代表者はこれまでの研究において、この二つは容量制約とそれを引き起こす脳機序の両面において非常に類似性が高いことを見いだした(Tsubomi et al., 2013, J. Neurosci)。本研究課題ではこの成果を発展させ、主に二つのテーマについて検討を進めてきた。 まず一つ目として、「目の前に存在する物体」の表象に容量制約が生じるメカニズムを検討した。過年度の実験において、「目の前に存在する物体」に対しては、マスクに弱い表象と強い表象の二種類が存在し、マスクに強い表象に容量制約が見られることを見出した。そして、このマスクに強い表象の容量が、従来「消え去った物体」を表象すると考えられてきたワーキングメモリ容量と強く相関することを見出した。また、追加実験として脳波実験も行い、神経機序から見たときにもこの二つの表象が分離可能であることも見出した。このテーマについては実験を完了し、論文執筆を進めている。 また、二つ目のテーマとして、不必要になった知覚や記憶が消去される脳過程を検討した。昨年までの脳波実験において、ワーキングメモリの内容は、課題目標が達せられた時点で、特に指示されることがなくとも、自然と忘却されることを新たに発見していた。また、行動指標から見ても不必要な情報が消去されていることも見出した。30年度は、データ解析をさらに進め、記憶容量の多い個人は少ない個人に比べて、不必要な情報をすばやく消去できることも新たな解析の結果明らかにした。また、脳波実験と行動実験の両方において補足実験を進め、いずれも完了することができた。現在は、国際雑誌に投稿する論文を執筆している。
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