算数・数学問題解決時における「教師役と学習者役」の視線移動特性を検討した。実験課題には,図形問題としてタングラム(7ピースを用いて指定された形を構成するパズル)を用い,学習者役にはタングラムに取り組む役割を,教師役には学習者役の様子を観察しながらヒントを提供する役割を設定して,両者の視線移動計測を行った。本実験でのヒントとは,教師役が学習者役に,ヒント1回につき1ピースの置き方を提示するものである。制限時間90秒以内に完成させるという条件の下,教師役,学習者役のどちらでもヒントが必要だと判断した場合に手元のベルを鳴らし(教師提案,学習者要求),ベル後に教師役がヒントを提示することとした。残り時間を示すタイマーを両者が見える位置に設置し,解答確認用の模範解答は教師役のみに見える位置に配置した。 視線配分割合を分析した結果,教師役が,学習者役の取り組む様子を見る割合は,実験全体のうちの約60%の時間にとどまり,約20%の時間は模範解答で確認を行っていた。また,5%程度の時間を,残り時間の確認にあてていた。一方,学習者役は,90%以上の時間を,自身の手元やピースなどを見て,問題解決にあてていた。残り時間を確認することは,ほとんどなかった。授業など,限られた時間での学習では,教師が時間管理をしながら効果的な進め方を行う必要があるといえる。 教師提案,学習者要求のヒント別に分析を行うと,教師役がベル後にヒントを提示するまでに要する時間は,学習者要求の場合の方が長く,その要因はベル後に複数回模範解答を確認するためであることが明らかとなった。また,学習者要求のヒント提示が早い教師役ほど,学習者を見る1回あたりの時間が短く,模範解答やタイマーなどへの短時間の視線移動回数が多い傾向にあった。学習者だけに視線を停留させすぎず,適宜他の情報を確認することが,迅速な助言につながることが示唆された。
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