平成28年度は、これまでに作製・評価した素子と、構築したテラヘルツ応答測定系を用いて、「単一量子ドットのテラヘルツ分光、テラヘルツ電磁波を用いた単一電荷・スピン伝導の制御」に関する実験を行った。具体的な成果としては、自己組織化InAs量子ドットトランジスタ素子に対して、2連の時間遅延した広帯域テラヘルツ光を照射し、その際の光電流の遅延時間依存性を詳細に解析することによって、非平衡状態下における電子間相互作用の大きさを単一電子レベルで評価できることを見出した。具体的には、テラヘルス光励起されて非平衡状態にある電子に対して、クーロン相互作用の大きさを評価することに成功した。一方で、テラヘルツ電磁波を用いた単一電子やスピン状態のコヒーレントな制御に関する実験は、最適なトランジスタ素子を得ることができなかったため、本年度は成果を挙げることができなかった。 また本年度は、従来の自己組織化InAs量子ドットに加えて、新たに単一の自己組織化InSb量子ドットを活性層とする単一電子トランジスタ素子を作製し、その伝導特性を評価することに成功した。伝導特性からは、InSb量子ドットがテラヘルツ帯のエネルギーに相当する非常に大きな軌道量子化エネルギーと、極めて大きな電子のg因子を有することが分かった。これらのInSb量子ドットに特有の大きな量子準位間隔や、非常に大きな電子のg因子を用いることで、今後、単一電子やスピン状態の制御が、より容易に実現できるようになることが期待される。
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