電場増強度を高めたプラズモニックナノ構造を利用した単一生体分子検出に注力した。とくに貴金属ナノ構造の形状とサイズを最適化し、ミリ秒以内に十分なSN比でペプチド分子をラマン分光検出することが可能となった。また、貴金属ナノ構造による電磁気学的増強効果に加えて化学的増強効果にも着目し、化学的増強効果による表面増強ラマンスペクトルの変化を解析することによって生体高分子の配向を単一分子スケールで同定することが可能となった。さらに、光照射した貴金属ナノ構造近傍に作用する光誘起力および光誘起熱に関しても検討を行い、貴金属ナノ構造近傍の生体高分子構造への影響を調べた。 貴金属に代わる光材料としてシリコンの利用を検討し、金ナノ構造と同等の電場増強度を確保しながら、金ナノ構造よりも光発熱性が1/100程度に抑制されることを示した。とくにシリコンナノギャップ構造を用いると電場増強度がさらに向上することも示し、本研究において貴金属以外の材料も有効であることがわかった。また、シリコンナノ構造近傍では貴金属ナノ構造近傍とは異なる特異的な光誘起力が作用することも示された。これらはシリコンナノ構造中に可視域において発現する磁気双極子が原因であることも数値計算により明らかにした。 今後の研究の展望としては、単一生体高分子の揺らぎに関する新しい数理モデルの構築とその実験的実証が挙げられる。これらが実現されればナノバイオ計測における強力なツールになり得ると期待している。
|