研究課題/領域番号 |
26706012
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂上 知 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (60615681)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 有機半導体 / レーザー / イオン液体 / 電気化学発光セル |
研究実績の概要 |
2015年度は、有機半導体レーザーの実現を目指して、Light-emitting electrochemical cell (LEC) の作製を行った。特に大電流密度下での発光効率低下の問題に取り組んだ。これまでにパルス駆動によって大電流密度注入は実現していたものの、およそ200 A/cm2 を超えると、発光効率が低下していた。これは、有機EL等でも甚大な問題と考えられている発光効率のロールオフと言われる現象で、レーザーの実現にはこの解決は極めて重要であると考えられている。一方で、これまでロールオフの原因にはいくつもの可能性が指摘されており、個々のデバイスで何が要因となっているかを明確にすることは難しかった。そこで、我々はLECでのロールオフ問題の原因を探るために、パルス駆動時の発光と電流の過渡応答を測定したところ、マイクロ秒からミリ秒スケールで発光効率の低下が起こっていることが分かった。様々なロールオフ要因のなかでもこのような時間に依存した効率低下という点は、ジュール熱あるいは三重項励起子による一重項励起子の消滅だと言うことを示唆した。これらの時間に依存して増える光損失要因は、速い時間スケールでデバイスを駆動するほどに最小限に抑えることができると考え、パルス幅を可能な限り短くすることを検討した。その結果、作製したLECは200ナノ秒の電圧パルスに応答する世界で最も速い応答速度を実現することが分かった。重要なことに、200ナノ秒での駆動時には、ロールオフの問題が起こらず、2 kA/cm2 の高電流密度にいたるまで一定の発光効率を実現することができた。これは有機ELでも実現されていなかったことであり、有機半導体レーザーの実現に向けた重要な成果であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大電流密度注入するだけでなく、大電流密度下でも発光効率が減少しないような特性は、これまでいかなる有機発光デバイスでも実現されていなかったことであり、重要な知見であると考えられる。これは、特に電子とイオンを別々に制御する手法を新たに考案することで、ナノ秒スケールに入るLECとしては世界でも最速の駆動を達成したことによる。有機ELや発光トランジスタでは解決が難しかった問題を解決できたため、有機レーザーの実現には極めて重要なステップであったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度は、デバイスのサイズを極小とすることで容量成分を減らし、さらなる高速駆動と大電流密度注入の実現を目指す。また、共振器構造の導入を行うことでレーザー発振のしきい値を下げる。これまでにDistributed feedback (DFB)構造を導入したLEC作製を行ってきたが、誘電体多層膜ミラーを用いたDistributed Bragg Reflector (DBR)構造など、様々な共振器構造の導入を試みる。さらに、現在用いている発光性材料も、発光効率は13%とあまり高くないことも課題である。より電荷輸送、イオン輸送そして発光効率に優れたLEC用のポリマーを見出していく。また、今年度までに確立したLEC技術を、様々な半導体材料へ展開させ、新たな電子-電気化学ハイブリッドデバイスの構築を試みる。動作メカニズムの解明に関しては、ケルビンプローブ顕微鏡や、電子スピン共鳴など、様々な手段によって電子とイオンの複雑に絡んだデバイスの特性を解明していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
検討していた除振台の性能が不足していることが分かり、2015年度の予算では購入が出来なかった。また充分な性能を有する除振台を購入するには金額が不足していたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と今年度予算を合わせて昨年度購入できなかった充分な性能を有する除振台の購入を行う。
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