本研究では、炭化物の熱分解により、様々な特徴を持つグラフェンを成長することを目的としている。SiC単結晶基板上に炭化アルミニウム、炭化ホウ素、および炭化チタン薄膜を成長し、それらを熱分解することでグラフェン化する。特に本年度は、パルスレーザー堆積装置にロードロック室を導入し、実験の効率向上を図った。 まず、膜厚約27nmの炭化アルミニウム薄膜の熱分解により、20層程度の多層グラフェンを形成した。このグラフェンのHall効果測定を行ったところ、キャリアタイプは正孔で、シートキャリア濃度4x10^14cm-2、移動度7.3cm2/Vsであった。ここで、SiC上に形成されたグラフェンのキャリアは通常は電子であり、炭化アルミニウム由来グラフェンのX線光電子分光測定の結果から、グラフェン中にアルミニウムが存在することがわかった。これらの結果は、グラフェン中にドープされたアルミニウムが正孔伝導の起源である可能性を示唆している。次に、炭化ホウ素の熱分解により作製したグラフェン中には高濃度のホウ素がドープされていることが前年度までにわかっているが、このホウ素ドープグラフェンの低温での電気伝導測定および磁化測定を行った。超伝導の出現が期待されたが、電気伝導測定の結果から、10mKより高温では超伝導転移は起こらなかった。一方、磁化測定を行ったところ、110K付近でスピングラスと見られる挙動が観測された。この現象は一般的なグラフェンには観察されず、ドープされたホウ素が局所的なスピンフラストレーションを起こしていることによると示唆される。 これらの結果は、当初目標としていた結果とは異なるものの、アルミニウムドープグラフェン成長やホウ素ドープグラフェンによるスピングラス挙動など、これまで報告されていない興味深い材料および物性を見出すことができた。
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