研究課題/領域番号 |
26706018
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
久保 敦 筑波大学, 数理物質系, 講師 (10500283)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / プラズモニクス / フェムト秒 / レーザー / 顕微鏡 / 超高速現象 / 時間分解 / 非線形光学 |
研究実績の概要 |
・H27年度に、波長1.55μm、100フェムト秒レーザーパルスを用いた時間分解二光子蛍光顕微鏡法により、Au導波路を伝搬する表面プラズモン波束の時間分解映像化に初めて成功した。しかし、レーザー照射による試料構造の破壊、蛍光物質の劣化、レーザー出力の不安定性などの問題により、計測の安定性が不十分であった。H28年度は、試料へのレーザー照射方法、導波路構造、蛍光物質、蛍光膜の作成条件等の最適化を行い、加えてレーザー出力安定化のための対策を行い、表面プラズモン波束の動的な物理パラメーターを十分精密に決定するに足る安定的な時間分解映像計測の方法論を確立した。その結果として、レーザーパルスによる表面プラズモン波束励起後、~1 psの伝搬時間に渡る時間分解映像を取得し、波束が約300μmの距離に渡り直線型導波路を伝搬する様子の可視化に成功した。近赤外表面プラズモンの特徴である、包絡線形状の変化が小さく、比較的長距離を伝搬する波束の特徴が精密に計測できた。この結果を元に、分岐型導波路やマッハ-ツェンダー型変調素子等、より実際的な光デバイス回路の要素となる構造を伝搬する波束の映像化に取り組んだ。 ・表面プラズモン増幅に関しては、参考となる研究例が豊富な可視光帯(波長~600nm)でSPASER機構による表面プラズモン増幅の実証実験を進めると同時に、1.55μm帯で機能する利得媒質のテストを継続して行った。その結果、色素(Dye)をドープした利得層をAg薄膜上に形成した積層膜構造において、光ポンプに伴う明瞭な表面プラズモンの自然放出増強(ASE)を観測することに成功し、まず600nm帯においてSPASERの発現を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は主に以下の3つの項目:①通信帯フェムト秒レーザーを光源にした時間分解蛍光顕微鏡法の開発、②ナノスケールプラズモニック素子の製作、③プラズモン波束の非線形増幅、を実施する計画である。年次毎のマイルストーンの設定は、①をH26年度、②をH27年度、③をH28~29年度に実施、である。 現在の進捗状況は、①は到達、②はSP分岐路、MZI変調素子、プラズモニック結晶等を試作済みであり到達、③は600nm帯でSPASER機構による明瞭な表面プラズモン増幅を実現しており一部到達、である。
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今後の研究の推進方策 |
①ロバストな表面プラズモンの伝搬特性を有する表面プラズモン素子構造の製作: 表面プラズモンのロジック回路を組むために、プラズモン信号の「分岐路構造」が必須である。H28年度中に試作した素子構造は、分岐部分での表面プラズモン散乱による損失が大きく、この低減が必要である。プラズモン信号の導波空間がより厳重に金属材料でガードされた、ロバストなプラズモニック素子構造の研究開発を進める。 ②1.55μm帯における最適なSPASER利得材料の決定とプラズモニック素子構造への組込み: 600nm帯におけるSPASER機構の実証の知見から、いわゆるクレッチマン配置で計測される表面プラズモン輻射の角度分解スペクトルにおいて、閾値以上のポンプ光強度領域におけるSPスペクトル幅の大幅な狭窄化、ならびに輻射角度分布の先鋭化の発現が、利得媒質の良否を見極める判断基準となることが分かった。まず近赤外領域に感度を有する角度分解スペクトル計測装置を完成させ、半導体量子ドットを中心に良質な利得層の作製条件の絞込みを行う。その結果を①で製作のプラズモニック素子に組み込み、プラズモン波束の非線形増幅を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額はH27年度から繰り越した「基金助成金」の未使用分である。これが生じた理由は、さらに前年のH26年度に基金助成金の前倒し支払請求を行ったためである。本研究課題1年目のH26年度に研究計画の一部を前倒しで実行することにしたため、基金助成金の期間全体総額を前倒し請求し、研究を加速した。未使用分は翌年度(H27年度)以降に繰り越した。それ以後、H27年度、H28年度と研究の進展は概ね計画通りであり「科学研究費補助金」により実施できたため、「基金助成金」についてはH29年度の物品費等に使用するため繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
H29年度に使用する。光学ミラーや試薬など実験の消耗品費、微細加工プラットフォーム等オープンファシリティーの利用料金支払い、論文出版費、旅費、としての使用を計画している。繰り越しに伴う研究計画の変更は特にない。
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