研究課題/領域番号 |
26706026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
全 炳俊 京都大学, エネルギー理工学研究所, 助教 (80548371)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | コヒーレントアンジュレータ放射 / 超短バンチ電子ビーム発生 / テラヘルツ |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度まで整備してきた光陰極高周波電子銃、磁気バンチ圧縮器、四重極電磁石の下流にアンジュレータを設置し、実際にTHzコヒーレントアンジュレータ放射の発生を行った。この際、発生したTHzコヒーレントアンジュレータ放射の損失を最小限すべく、アンジュレータ直下流にチタン薄膜を角度45度で挿入し、THzコヒーレントアンジュレータ放射を90度反射させ、大口径(φ64mm)の合成石英窓を通して大気中に取り出した。発生したTHzアンジュレータ放射強度が電子銃の運転条件や磁気バンチ圧縮器・四重極電磁石の調整条件に強く依存している事が確認された。また、自作の遠赤外干渉計を用いて発生させたTHzコヒーレントアンジュレータ放射の周波数スペクトルを測定した。測定の結果、アンジュレータの周期数とほぼ同じ10周期のTHz放射が得られている事、放射の中心周波数がアンジュレータの磁場強度を変えることで0.16THzから0.55THzまで可変である事、測定されたTHz放射の中心周波数がアンジュレータの磁場強度と電子ビームエネルギーから予測される値と良く一致している事が確認された。本測定において、中心周波数が高くなればなるほど測定されたTHzコヒーレントアンジュレータ放射の強度は低下しており、これは電子バンチの圧縮が十分でなく、高周波(=短波長)な放射においては個々の電子からの放射の足し合わせ条件が徐々に悪化していく為であると考えられており、昨年度のコヒーレント遷移放射光を用いたバンチ長測定結果と同様の傾向が得られている。一方、0.16THzの測定結果においては、アンジュレータ周期数(10)よりも少ない、8周期の放射しか測定されず、回折損失やアンジュレータ中での電子エネルギー低下等、原因は色々と考えられるが、特定には至っていない。原因究明には更なる検証実験が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成26年度に発生した光陰極高周波電子銃にマイクロ波を供給するための導波管(絶縁ガス充填)と電子銃(超高真空)との間に設置するマイクロ波透過窓として使用するための高周波窓の真空漏れが原因で昨年度までやや遅れているという状況であった。平成28年度はTHzコヒーレントアンジュレータ放射の発生とそのパワー測定を目標としていたが、パワー測定に関してはTHz領域で較正された測定器の選定に時間を要し、測定には至らず平成29年度にずれ込んだ。また、一台目からのTHzコヒーレントアンジュレータ放射の測定に予想以上に時間が掛り、まだ絶対強度の測定が終わっていないことから、二台目のアンジュレータ設置には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
まず、THz領域で較正された検出器を用いて、一台目のアンジュレータから発生したTHzコヒーレントアンジュレータ放射の絶対強度測定を行うと共に、周波数スペクトルや空間分布などの測定を行う。そして、得られたTHzコヒーレントアンジュレータ放射と数値計算結果との比較を行う。一台目のアンジュレータから得られるTHzコヒーレントアンジュレータ放射の強度が応用実験に利用可能な程、十分に強ければ大強度THz光を用いた応用実験についても行う。一台目のアンジュレータから得られるTHzコヒーレントアンジュレータ放射の強度が予想よりも低い場合は、実験・計算の両面からその原因の調査を行う。 上記の特性計測と並行し、電子遅延路・光学遅延路の製作を行い、電子遅延路・光学遅延路・二台目のアンジュレータをビームラインに設置し、装置を組み上げて提案手法の実証実験を行う。実際には電子遅延量を固定しておき、光学遅延量を変化させ、電子と一台目のアンジュレータで発生させたTHzコヒーレントアンジュレータ放射との位相関係を変化させることで相互作用条件を変えて、その依存性を調査する。ただし、二台目のアンジュレータで十分な相互作用を起こさせるためには、一台目のアンジュレータで十分な強度のTHzコヒーレントアンジュレータ放射を発生させ、効率よく二台目のアンジュレータに供給する必要がある。この為にも、前述の一台目のアンジュレータからのTHzコヒーレントアンジュレータ放射の絶対強度測定を先行して行う必要がある。 最後に、本研究にて得られた結果をまとめて、本研究で提案した超短バンチ電子ビームを用いた新規THz自由電子レーザ発生手法について総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、一台目のアンジュレータから発生したTHzコヒーレントアンジュレータ放射の測定に手間取り、また、THzコヒーレントアンジュレータ放射の絶対値測定に至らなかったため、電子遅延路および光学遅延路の製作に取り掛かれなかった。この為、電子遅延路・光学遅延路を作成するための物件費を本年度に繰り越す事となった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に繰り越した予算は電子遅延路・光学遅延路の製作に使用する。
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