研究課題
本研究は、宇宙線中に微量に含まれている反粒子(とりわけ未発見の反重陽子)の高感度探索を通じてダークマター等の初期宇宙物理の課題に迫ることを最終目的としている。宇宙線反重陽子は、超対称性粒子ニュートラリーノを始めとするダークマター候補の対消滅等を起源として極微量が存在している可能性がある。その検出に最適な低エネルギー領域(運動エネルギー数100MeV)にて最高の観測感度を得るため、宇宙線反粒子と測定器ターゲットとが形成するエキゾチック原子の崩壊過程から生ずる特性X線や荷電粒子を利用する、という従来にないオリジナルな粒子識別手法を用いた反粒子宇宙線測定器「GAPS(General Anti-Particle Spectrometer)」の開発を進めている。平成26年度は、GAPSのSi(Li)型半導体検出器を-35℃まで冷却するための熱輸送機構にOHP(自励振動ヒートパイプ)という先進的な熱工学技術を導入した。従来のOHP研究は主に卓上レベル(ターン長30cm・平面状・常温)の基礎研究であったが、GAPS用OHPにはターン長8m・立体的配管経路・常温から低温(-60℃)の広温度範囲、という従来にない環境下での動作が求められる。そこで、実機スケールのOHPモデル(ターン数はスケールダウン)を開発し、その可視化などを通して実機スケールOHPのデータの蓄積に成功し、OHPの挙動を詳細に分析した。Si(Li)検出器そのものに関しても、実機に向けた量産化法の開発に着手し、研究協力者の拡大やメーカーとの調整を進めた。GAPSのもう一方の主要測定器であるプラスティックシンチレータ型TOFカウンタに関しては、GEANT4シミュレーションを用いた測定器形状設計の最適化を進めた。また、GAPSのホームページを開設した。得られた成果は学会や学術論文にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
Si(Li)検出器の冷却機構に関しては、当初計画どおり、OHP(自励振動ヒートパイプ)を導入し、そのデータの蓄積と挙動の理解の深化に成功した。また、当初計画を超えて研究協力者の拡大を実現でき、Si(Li)の量産化法の開発の礎も築いた。TOFカウンタに関しては、当初計画どおりシミュレーションによる形状設計の最適化検討を行ったが、供試体の製作は次年度への持ち越しとなった。
Si(Li)検出器冷却用のOHP開発を引き続き推進し、その技術的適合性を見極める。Si(Li)の量産化法など、GAPSの実機開発に向けた開発検討も引き続き進める。TOFカウンタに関しては、シミュレーションに加えて実モデルの開発も行い、形状設計の最適化を図る。また、TOFカウンタ読み出しデバイスとしてのMPPCの導入の可否を、GAPSの実飛翔環境への耐性の観点を含め総合的に検討する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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