研究課題
本研究は、宇宙線中に微量に含まれている反粒子(とりわけ未発見の反重陽子)の高感度探索を通じてダークマター等の初期宇宙物理の課題に迫ることを最終目的としている。宇宙線反重陽子は、超対称性粒子ニュートラリーノを始めとするダークマター候補の対消滅等を起源として極微量が存在している可能性がある。その検出に最適な低エネルギー領域(運動エネルギー数100MeV)にて最高の観測感度を得るため、宇宙線反粒子と測定器ターゲットとが形成するエキゾチック原子の崩壊過程から生ずる特性X線や荷電粒子を利用する、という従来にないオリジナルな粒子識別手法を用いた反粒子宇宙線測定器「GAPS (General Anti-Particle Spectrometer)」の開発を進めている。平成27年度は、前年度に引き続き、GAPSのSi(Li)型半導体検出器を-35℃まで冷却するために導入を検討しているOHP(自励振動ヒートパイプ)という先進的な熱工学技術の開発を進めた。従来のOHP研究は主に卓上レベル(小型・単純構成・常温)の基礎研究であったが、GAPS用OHPには大型・複雑な配管構成・広温度範囲、という従来にない環境下での動作が求められる。前年度に実施した実機スケールの大型OHPモデルによる試験を発展させるべく、大きさだけでなく配管構成も実機を模したOHPモデルを開発し、評価試験を実施した。とりわけ、不均一な冷却が生じうる問題への対策を実験的に見出し、OHPのGAPSへの適性を高めた。Si(Li)検出器そのものに関しても、前年度に着手した実機に向けた量産化法の開発を、産業界の知見も融合してさらに進めた。GAPSのもう一方の主要測定器であるTOFプラスティックシンチレーションカウンタに関しては、前年度に行ったGEANT4シミュレーションを発展させつつ、実モデルによる評価試験も行い、測定器形状設計の最適化を進めた。得られた成果は学会や学術論文にて発表した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、Si(Li)検出器の冷却機構への適用に向けたOHP(自励振動ヒートパイプ)の技術開発、Si(Li)検出器の量産化方法の検討、TOFプラスティックシンチレーションカウンタの実モデルによる形状検討、を実施し、いずれも順調に進んでいる。特にOHP開発においては、OHPの適用性を大幅に向上しうる方策を見出す、という成果を挙げた。
Si(Li)検出器冷却用のOHP開発を引き続き進め、その技術的適合性に関して結論づける。Si(Li)検出器の量産化法の検討も引き続き進め、フィジビリティを見極める。TOFカウンタに関しては、これまでは個々のカウンタの形状設計の最適化検討に注力していたが、今後はシステム全体としての設計検討に発展させる。また、TOFカウンタ読み出しデバイスとしてのMPPC導入の可否を、GAPSの実飛翔環境への耐性の観点を含め、引き続き総合的に検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 6件) 備考 (1件)
Physics Reports
巻: 618 ページ: 1-37
10.1016/j.physrep.2016.01.002
Astropart. Phys.
巻: 74 ページ: 6-13
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http://gaps.isas.jaxa.jp/