研究課題
2007年の理論予言以降、単純な金属でも単純な絶縁体でもない、特殊な金属状態を結晶表面に有するトポロジカル絶縁体(TI)が注目されており、基礎・応用の両観点からグラフェンを越える可能性を有する物質として世界中で盛んに研究されている。一方で、最近ではTIに関する新たな研究の展開が望まれているのも事実である。本研究では、特に”トポロジカル結晶絶縁体(TCI)” と呼ばれる新種のTIに着眼して研究を行っている。26年度の研究では、TCIに属するPb1-xSnxSeに着眼し、いくつかのTCI特有の性質を走査トンネル顕微鏡による原子分解トンネル分光によって捕らえることに成功した。一つ目の発見として、Dirac点に対して高エネルギー側と低エネルギー側では実空間における電子同士の量子力学的な干渉が定性的に異なることを実験的に捕えることに成功した。このような観測結果は、Dirac点を境にしてバンドを担う電子の軌導の性質が異なる結果として説明できた。さらに、二つ目の発見としては、鏡面対称性の破れを伴う結晶表面の歪みに応答したDiracバンドのギャップを磁場中でのランダウレベル分光から実験的に見出すことに成功した。
2: おおむね順調に進展している
トポロジカル結晶絶縁体の一つであるPb1-xSnxSeを超高真空下で壁開し、走査トンネル顕微鏡を用いて低温でのトンネル分光を行った。磁場を印加することでランダウレベルを形成させ、スペクトルを解析することでDirac電子のバンド構造を詳細に調べることが可能である。現在までの測定で明らかになってきたことは、結晶表面では原子配列の歪みによって鏡面対称性が破れ、この対称性の破れがDirac電子のバンド構造にエネルギーギャップを与えていることである。ここで興味深いことは、結晶表面で重要となる鏡面は2種類あり、この一方のみが対称性を破って鏡面ではなくなるという非常に特殊な状況が実現していることである。この帰結として、4個のDirac錘のうちの2個のみにエネルギーギャップが出現することがわかってきた。つまり、一言で結晶表面の鏡面対象性が破れるといっても、その様相によって4個のDirac錘は様々にエネルギーギャップを持ちうることを示している。このように、TCIならではの性質を原子レベルで実験的に示せたことは大きな成果であり、研究計画はおおむね順調に進んでいるといえる。
Dirac電子系へのエネルギーギャップの導入はデバイスへの応用の観点から重要である。しかも、本研究で着眼しているPb1-xSnxSeでは4個のDirac錘があり、各Dirac錘のギャップを個別に制御できる可能性がある大変興味深い物質である。今後は、定性的な議論を超え、ドーピング量xを様々に変えたPb1-xSnxSeのDirac電子のバンドに形成されるエネルギーギャップの大きさを決定している因子を定量的に解明し、さらには積極的に制御する技術を確立することが目標である。
本年度は、研究を実行する上で走査トンネル顕微鏡測定を行う薄膜試料のX線解析を行う必要に迫られ、その設備投資が急務になった。よって、当初の計画を変更してX 線解析装置を購入した。この物品費への投資が次年度使用額が生じた理由である。しかし、結果的にこの物品費への投資は今後の研究を大きく加速することになった。
今後は、走査トンネル顕微鏡によるトンネル分光実験に必要な液体ヘリウムの購入など、主に研究計画を遂行するに当たっての消耗品費へ経費を当てる予定である。また、研究成果を国内外で発表するために必要となる旅費へも十分に当てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 3件)
Nature Communications
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