研究課題/領域番号 |
26707017
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
鬼丸 孝博 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (50444708)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 低温物性 / 電気四極子 / 超伝導 / 中性子回折 |
研究実績の概要 |
近年,4f2配位をもつ非クラマースPr3+イオンを含む金属間化合物において,多極子自由度が創出する多彩な物性に注目が集まっている。申請者は,新規カゴ状物質PrT2Zn20 (T: Rh, Ir)において,超伝導転移が反強四極子秩序相内で起こることをはじめて見出し,四極子揺らぎによる超伝導機構を提案した。さらに,熱電能や弾性定数,圧力下電気抵抗の結果より,多極子と伝導電子の混成効果に起因する量子相転移の可能性を指摘した。そこで本研究では,多極子に起因するこれらの強相関電子現象に着目する。磁場や圧力,元素置換により多極子と伝導電子の混成効果をコントロールし,ミクロ・マクロ両面の測定手法を駆使することで,これら強相関電子現象の特異性と普遍性を捉える。 本年度は,まずPrT2Zn20 (T: Rh, Ir)の大型単結晶の作製を行った。高周波加熱による予備反応およびブリッジマン法を採用し, 7mm角以上の単結晶を作製した。作製した大型単結晶を用いて,磁場中中性子散乱実験を行った。中性子回折実験は,フランスのレオン・ブリルアン研究所にて,希釈冷凍機と6テスラ超伝導マグネットを組み合わせて行った。四極子秩序相で磁場を印加し,磁場誘起の反強磁性による回折ピークを観測した。 また,カゴ原子のZnをGaに置換した系の試料を作製した。比熱を温度で割ったC/Tが-lnT依存性を示す温度領域が,Ga置換とともに高温側にシフトすることが分かった。さらに,磁化率はGa置換により低温で上昇する傾向が現れる。これらのことから,Ga置換によって混成が増強され,非クラマース二重項による新しい基底状態が形成された可能性がある。 上記で作製した単結晶を,国内外の研究グループに提供した。今後,ミクロ・マクロ手法による成果が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,本研究のもっとも重要な課題の一つであるPrIr2Zn20の大型単結晶の作製に成功した。これまでの試料作製に関する情報を見直し,高周波加熱による予備反応とブリッジマン法の採用により,7mm角以上の大型の単結晶を得た。この大型単結晶が決め手となり,翌年度に計画していた中性子回折の実験を前倒しで行うことができた。これまでのマクロ測定により,PrIr2Zn20は反強四極子秩序を示すことが示唆されていた。今回の磁場中中性子会実験により,四極子秩序に対応する磁場誘起反強磁性の回折ピークを観測した。四極子の秩序変数をミクロ手法により観測した重要な成果である。 また,試料作製に関しては,Zn原子をGaで置換した系の純良試料を得た。この試料を用いた電気抵抗率,比熱,磁化の測定から,Ga置換系でも非クラマース基底二重項が維持されていること,またGa置換により基底状態が非磁性から磁性へ変化している可能性が示唆される。 今回作製した単結晶を,国内外の研究グループに提供した。現在のところ順調に測定が進んでおり,今後重要な研究成果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今年度作製したPrIr2Zn20の大型単結晶を用いて,中性子回折実験を進め,ホール係数や熱膨張・磁歪についても測定する。磁場中の中性子回折については,まだ1つの磁場方向での測定しか行っていないので,他の磁場方向での測定も行う。また,同型のPrRh2Zn20についても,PrIr2Zn20の試料作製の方法を参考にして,大型単結晶の作製に挑む。大型の単結晶が得られたら,同様に磁場中での中性子回折実験を行う予定である。カゴ原子のZnをGaで置換した系についても,組成比に対する変化を基礎物性測定により詳細に調べる。さらに,ZnをSnで置換した系の試料作製を行い,元素置換による系統的な変化を捉える。 また,PrT2Zn20 (T=Rh, Ir)ならびに元素置換系について,磁場中での電気抵抗率や比熱を0.1 K以下の極低温まで測定する。PrIr2Zn20に関しては, 極低温でのグリューナイゼン定数を評価するための熱膨張・磁歪の測定のための準備を進める。すでに今年度導入したキャパシタンスブリッジを用いたテスト測定は完了しているので,測定セルや冷凍機への設置,測定プログラムの作成を順次進めていく。 PrT2Zn20 (T=Rh, Ir)の大型単結晶ならびに元素置換系の試料については,積極的に国内外の特徴ある測定グループへ提供する。この物質系における多彩な強相関電子現象についての理解が深まり,さらには本テーマの発展につながることが期待される。
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