研究課題
近年,4f2配位をもつ非クラマースPr3+イオンを含む金属間化合物において,多極子自由度が創出する多彩な物性に注目が集まっている。申請者は,カゴ状構造をとる立方晶化合物PrT2Zn20 (T: Rh, Ir)において,超伝導転移が反強四極子秩序相内で起こることをはじめて見出し,四極子揺らぎによる超伝導対の形成を提案した。本研究では,多極子に起因する強相関電子現象に着目する。磁場や圧力,元素置換により多極子と伝導電子の混成効果を制御し,これら強相関電子現象の特異性と普遍性を捉える。これまでに,PrIr2Zn20の純良な大型単結晶を作製した。この単結晶を用いて,フランスのレオン・ブリルアン研究所にて磁場中中性子散乱実験を行い,磁場誘起の反強磁性による2倍周期の回折ピークを観測した。微視的に四極子の反強的な構造が明らかになった。また,元素置換系の試料作製を試み,Znを4p電子が1個多いGaで置換できることを確認した。Ga置換した系の比熱は1 K付近で増大することから,元素置換による局所的な歪みの影響で対称性が低下し,基底二重項は分裂したと考えられる。そこで今年度は,Ga置換系のGa組成比の異なる単結晶を作製した。比熱と磁化の測定から,Ga置換量の少ない系の結晶場基底状態は非磁性二重項であることを確認した。Ga置換系の比熱を温度で割ったC/Tは1 K以下で降温とともに-lnT依存性で増大し,電気抵抗率は上凸で減少する。この非フェルミ液体的挙動が観測される温度領域はGa置換とともに高温側にシフトすることから,Ga置換により混成が増強されたと考えられる。また,Pr希薄系の単結晶を作製し,比熱と電気抵抗率の非フェルミ液体挙動を観測した。四極子と伝導電子の単サイトの混成効果の可能性について,今後の研究で明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
今年度は,PrIr2Zn20のZn原子をGaでわずかに置換した系の単結晶を作製し,比熱と磁化の測定により,結晶場基底状態が非磁性二重項を維持していることを確認した。Ga置換系の比熱を温度で割ったC/Tは1 K以下で降温とともに-lnT依存性で増大し,電気抵抗率は上凸で減少する。この非フェルミ液体的挙動が観測される温度領域はGa置換とともに高温側にシフトすることから,Ga置換により混成が増強されたと考えられる。また,Pr希薄系の単結晶を作製し,比熱と電気抵抗率の非フェルミ液体挙動を観測した。単サイトの混成効果に起因していると考えられる。また,これまでに作製した単結晶を,国内外の研究グループに提供した。今後,ミクロ・マクロ両面の実験による研究成果が期待される。
来年度は,PrIr2Zn20と同型のPrRh2Zn20の大型単結晶の作製に取り組む。大型の単結晶を用いて電気抵抗率や比熱、磁化の異方性、熱膨張について調べ、PrIr2Zn20で発現した非フェルミ液体状態との比較を行う。両者のPrサイトの点群は異なっているので、それがマクロな物性へどのような影響を与えているか、明らかにする。カゴ原子のZnをGaで置換した系の単結晶を用いて,Gaの組成比と磁場方向に対する変化を詳細に調べる。また,非磁性YIr2Zn20のYサイトを少量のPrで置換したPr希薄系の単結晶を用いて,磁場中での電気抵抗率と比熱を測定する。Pr組成に対するこれらの非フェルミ液体的振る舞いの変化を調べ,その起源を明らかにする。これまで実験的に観測されていない不純物四極子近藤効果の可能性についても検証を進めていく。PrT2Zn20 (T=Rh, Ir)の大型単結晶ならびに元素置換系の単結晶を,国内外の特徴ある測定グループへ引き続き提供する。この物質系における多彩な強相関電子現象についての理解が深まり,さらには本テーマの発展につながることが期待される。
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すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 9件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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