研究課題/領域番号 |
26707018
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北川 健太郎 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (90567661)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 超高圧 / 核磁気共鳴 / 重い電子系 / 量子臨界物性 / 新物質 |
研究実績の概要 |
本課題「超高圧・極低温・精密磁場制御環境の実現と核磁気共鳴測定による量子相転移の研究」では、核磁気共鳴(NMR)実験としては未到達の多重極限環境の構築を行い、種々の強相関電子系物質の超高圧下量子相転移の研究を行うことを目的とする。 我々はこれまでに10 GPa(万気圧)級の実践的な超高圧下NMR技術を初めて開発することに成功し、鉄系高温超伝導体を研究してきた。本年は、より高圧力(17 GPa)の技術を開発した他、その技術との組み合わせのため、安価なヘリウム再凝縮装置の開発により極低温環境の充実を図った。具体的には、通常のウェットマグネットとヘリウム再凝縮装置の組み合わせが最良と考え、既存のGM-JT冷凍機を利用したヘリウム再凝縮装置の開発を行った。液化槽とその周りに振動吸収可能な真空槽を追加し、圧力一定化装置付きの300Lバッファータンクを追加した。液化率はまだ未確認であるが概ね0.5L/hr程度であり、ガラスデュワーへの液体ヘリウム移送が目視で確認できている。 また、代表者らが2014年に発見した新しい構造を持つ重希土類Yb化合物の物性研究も進めてきた。YbCo2Ge4は、ランタノイド系化合物としては非常に有名なThCr2Si2構造と類似した構造を持つ。YbCo2Ge4は常圧下において20 mKまで秩序化せず、かつ非フェルミ液体的振る舞いを示すため、磁気不安定点にちかい量子臨界物質であることが判明した。Ybの価数は非常に3価に近く、従って4f軌道にホールを1個、合成角運動量J=5/2の状態を持つ。Yb3+の基底はクラマース二重項であるが、一般には基底のスピンサイズが大きいと量子ゆらぎは生じにくい。YbCo2Ge4はJz=+-5/2に近いイジング二重項が基底であることが比熱のエントロピー、磁化率の異方性と有効磁子数から容易に判明しており、大きなスピンの新しい量子臨界物質である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高知大学においてヘリウム再凝縮装置の開発を終了したこと、NMRに使用可能な超高圧技術として圧倒的に先端を行く17GPaまでの発生に成功したこと、全く新しい量子臨界物質YbCo2Ge4を報告したことが理由である。2年次以降に向けた実践的な研究のためのワイドボア低ヘリウム消費超伝導マグネットも無事調達されている。
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今後の研究の推進方策 |
2年次は「超高圧・極低温・精密磁場制御環境」を完成させる。現在2軸回転機構を備えた3He循環冷凍機の部品調達と設計をほぼ終了したところであり、本年度末までに希釈冷凍機に発展させるのが目標である。物性研究としては、前述のYbCo2Ge4の量子臨界物性の他、β-Li2IrO3の圧力下Kitaev的スピン液体相の探索、新しく発見した弱い遍歴強磁性体に関する強磁性体量子臨界物性の探索等を予定している。 尚、代表者は3月16日に東京大学理学系研究科に異動しており、申請書と異なり研究機関による液化のヘリウムを利用して極限環境実験を続ける予定である。
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