研究課題
本課題「超高圧・極低温・精密磁場制御環境の実現と核磁気共鳴測定による量子相転移の研究」では、核磁気共鳴(NMR)実験としては未到達の多重極限環境の構築を行い、種々の強相関電子系物質の超高圧下量子相転移の研究を行うことを目的としてきた。ここで報告する2年次では、当初の研究方策通り、ステッピングモーター駆動の磁場中2軸回転機構と3He循環冷凍機能を備え、それらと組み合わせる形で外径29mmの17万気圧級超高圧セルを使用可能なNMR・バルク測定プローブ及び温度可変インサート(現在までの実績は0.66-400 K)を年度中頃に完成させた。つまり、「超高圧・極低温・精密磁場制御環境」を予定通り実現させ、そのような環境でのNMR実験を初めて可能にした。インサート全体の寒剤消費量は全ての温度域で液体ヘリウム10L/日であり、FRP化などで今後減らすことも可能である。この新しい実験装置は稼働中であり、いくつかのNMR研究が進行中である。現在Kitaev型量子スピン液体(QSL)の可能性が活発に追求されているハニカム型Ir酸化物系に着目しており、ドイツMaxPlanck研究所との共同研究で開発されたいくつかの新物質をNMR実験により検証中である。特に、H3LiIr2O6において初のKitaev QSLが実現していると思われる予備的実験結果が得られた。NMRスペクトラムの線幅で評価したところ、最低温度の0.8 Kまで静的な内部磁場は0.01ボーア磁子以下であり、これまでで最もきれいな量子スピン液体物性を見出した。スピン格子緩和率からは低磁場ではギャップレスである一方、高磁場ではギャップ的な励起が観測された。この成果は学会といくつかの招待講演で発表済みであり現在論文に取りまとめている。
2: おおむね順調に進展している
一番の山となる「超高圧・極低温・精密磁場制御環境」を高いレベルで完成させたところである。昨年3月の異動に伴い研究時間にロスを生じているものの、開発のコストパーフォーマンスは非常に良い上に、年度後半からの物性NMR研究の進展状況はおおむね妥当なものと考える。
現在、装置の独自性を高めるべく、3He-4He希釈冷凍の機能を組み込んで試運転しているところである。実運用としては、これまでの研究で見出したKitaev型量子スピン液体研究をさらに発展すべく、より結晶構造が明確なハニカム型Ir酸化物α-Na2IrO3の超高圧下物性を測定する予定である。さらに、新規高圧下超伝導MnPのNMR測定を予定しており、超伝導機構の詳細や高圧磁気相の知見を得る予定である。最終年度となる本年度は、これらの結果の国内外での会議発表(日本物理学会、トルコICSM2016等)及び論文取り纏めを行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Chemical Physics Letters
巻: 630 ページ: 86-89
10.1016/j.cplett.2015.04.040
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/takagi_lab/kitagprofile.html