研究課題/領域番号 |
26707019
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
松波 雅治 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 助教 (30415301)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 価数搖動 / 重い電子系 / 光電子分光 / エピタキシャル薄膜 |
研究実績の概要 |
本研究では,重い電子系の物理における古くて新しい問題「価数揺動」に関して,エピタキシャル薄膜試料の開発と,光電子分光観察によるフェルミオロジーを組み合わせた研究によって新しい展開を切り拓くことを目的としている. 本年度は本研究を進める上で必要不可欠なMBE装置の建設を主に行った.設計のポイントは,標準の製品に比べてコンパクト化を進めた点にある.その最も重要な利点は,本研究で扱う希土類元素は非常に酸化され易いため,それを防ぐためのより高い真空度が比較的容易に得られるところにある.また,その高い可搬性は,放射光施設に持ち込んで,光電子分光装置と超高真空下で連結する際にも有利となる.実際に建設されたMBE装置は,従来のものよりもコンパクトでありながら,蒸着用のK-Cellを4つ,及び反射高速電子線回折装置(RHEED),水晶振動子による膜厚系を備えている.建設の後は,超高真空を得るための必要なプロセスである,初期ベーキングを徹底的に行った.また当初組み上げた装置からポンプ系を増強し,最終的に2×10-8 Paの超高真空を実現した.この結果はMBE装置で希土類元素を取り扱うための条件をクリアーしている.その他,ベーキング作業と並行して,ロードロックチャンバーの設置,電気配線や水冷システムの構築,試料ホルダーの設計等,装置周りの整備を進めた. 以上,本年度の作業により重い電子系のエピタキシャル薄膜を作製するための環境が整備された.これにより来年度以降,薄膜の作製,及びその場光電子分光測定へと進めていきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題における資金の大部分はMBE装置の建設に使われるが,申請額から大きく減額されたことで計画の変更を余儀なくされたため,その再検討に多くの時間を費やすこととなった.しかしながら,最終的に開発したMBE装置の建設と初期ベーキングを含めた整備を徹底的に行ったことにより,本研究の目的を達成するための装置スペックをクリアーすることができた. 以上,本年度はMBE装置の開発に集中したため,具体的な研究自体は来年度以降に進めることになるが,その準備段階として設定された本年度の目標は達成できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に建設が完了した新しいMBE装置を用いて,YbInCu4試料のエピタキシャル薄膜の作製・評価を行う.ここで,もし仮に薄膜作製が上手く進まないときには,YbInCu4の参照系YbTCu4(T = AuやAg,Pd等)や,既に成膜報告のある3元系YbCoIn5などの作製によって,成膜条件の再検討などのヒントを得ることも計画に入っている.薄膜作製が首尾よく進んだ場合,それは世界で初めての成果であり,試料評価だけでも非常にインパクトのある研究となる.したがって,光電子分光測定に進む前に,基礎物性に関してバルク試料との比較を徹底的に行い,エピタキシャル薄膜特有の性質を探索する. その後,薄膜作製の進捗状況に応じて,作製された薄膜試料の光電子分光測定を開始する.YbInCu4の42 Kという転移温度は,通常の光電子分光装置で容易に到達でき,かつスペクトルの熱ブロードニングが問題になるほど高過ぎることもないため,効率的なデータ取得・解析を行うことができると考えられる. 本研究では,価数転移を様々なパラメータによって制御することが目的の一つであり,そのためには価数の決定が本質的に重要となる.またYbイオンの正確な価数を評価することに加えて,人工超格子の深さ方向の電子状態測定のためにも,バルク敏感な硬X線光電子分光(HAXPES)測定が重要となる.そのため,本研究においてもHAXPESを積極的に利用することを計画している.
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次年度使用額が生じた理由 |
全て今年度中に使用したが,3月途中からのものは支払いが間に合わなかったため次年度使用扱いとなった.
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次年度使用額の使用計画 |
上記理由のため既に使用を終えている.その内訳は物品費71,207円,旅費2,300円となっている.
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