研究課題/領域番号 |
26707020
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 正敏 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (40403919)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 非平衡界面 / ソフトマター / アクティブマター |
研究実績の概要 |
本年度の主要な成果として、直流電圧によるミクロ物体の往復運動現象を報告した。確率共鳴(コヒーレントレゾナンス)によるリミットサイクル振動の誘起を実験で検証したものとなっている。ミクロ物体の軌道の時系列をウェーブレット変換し、得られたスペクトルとその特定波長域の積分を指標にして、ノイズ強度に対する物体の規則振動の強さを定量化した。適度なノイズ強度に対して共鳴的に振動が誘起されている事や、その振動スペクトルのなだらかな山が印加ノイズのバンドから外れている事も実験で確認した。熱ゆらぎやノイズの大きいミクロな系で規則運動を起こすひとつの手段として、リミットサイクルとコヒーレントレゾナンスとの組み合わせが有効であるという事を実証しており、ミクロな駆動機械や分子機械の設計にも貢献するものである。
初年度に報告した脂質膜小胞に生体高分子を高濃度で封入する手法について、これまで不明であった水和の初期プロセスを放射光エックス線回折実験で明らかにした。高分子の封入に際しては、前段階として乾燥脂質膜フィルムの水和が起こる。次に水和による水の流入に伴って膜間に存在する高分子が小胞に包み込まれると予想していた。実際に水和による膜間膨潤のダイナミクスに高分子同士の絡まり合いの効果が強くあらわれる結果が得られ、浸透圧による膨潤加速と高分子の粘弾性による鈍化によってダイナミクスが決まる事が確認された。また、脂質膜小胞の自発曲率を制御する事で、相分離や小胞の形状を操作する事に成功した。一方、昨年度までに行った脂質一分子膜でコートした油中水滴の中にATPと共にアクトミオシンを封入したモデル系については、異なる生物種由来のアクトミオシンでも同様の現象が起きる事を確認し、その結果の一部を論文として提出中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に掲げた3つの小課題、1)光照射によるマクロ物体の運動とモード分岐。2)アメーバ細胞とアクトミオシン小胞の両面からのブレブ運動の解明。3)実空間ミクロlimit cycle運動の熱ゆらぎによる確率共鳴駆動。これらについて、1では昨年度までに光照射の系に関して概ね当初目標に到達した。自己推進粒子との相同性から遊泳微生物の運動を明らかにする実験も開始しており、成果が出始めている。また、新たな展開として光照射なしで推進する液滴の興味深い結果が得られている。この自己推進液滴の運動モード分岐について、国際共同研究などを通じて更に実験を進めている。2ではアメーバ以外の生物種から抽出したアクトミオシンで現象の一般性を検証する実験を進めているほか、アメーバ細胞の運動解析に関して得られた成果をまとめて論文を作成中である。また、初年度に行った生体高分子を封入した小胞の作成法に関しての追加の論文や、自発曲率を変化させる成分のドープによって相分離ドメインの変化や小胞の変形に関する論文を出版するなど、順調に進捗した。3は概ね当初目標に到達し、その成果を論文としてまとめて報告した。現在は、この成果を全く別の系に応用するアイデアを検討中でである。総じて期待通りに進展しており、概ね順調であると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
現時点で論文準備が整った、あるいは整いつつある内容が複数あるので、最終年度の総括として、それらを論文として報告することを目指す。研究計画の当初目標に到達した部分もあるほか、更なる発展が得られている内容もある。それらの発展性も重視しつつ、引き続き研究を推進する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
時間雇用する予定であった者の都合により雇用が取り消された為。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究期間中に新たに見出された発展に関しての物品購入等に充てる事によって、当初見込みを上回る成果を目指したい。
|