研究課題/領域番号 |
26707020
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
市川 正敏 京都大学, 理学研究科, 講師 (40403919)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 非平衡界面 / ソフトマター / アクティブマター |
研究実績の概要 |
本年度の主要な成果として、遊泳単細胞微生物テトラヒメナが壁に集積する現象のメカニズムを顕微観察による実験と流体シミュレーションを組み合わせることによって明らかにした。テトラヒメナは水底や石などの壁表面を好んで棲んでいる事が知られていたが、壁を認識する機構は不明であった。顕微鏡による流動計測やライトシート顕微鏡などから得られた実験結果を流体シミュレーションのモデルに組み入れることで、テトラヒメナの壁への滞在が壁付近の繊毛の停止によるものであることを明らかにした。繊毛の停止は壁との摩擦や自身の遊泳力による押し付けによって起こっており、繊毛1本1本がもつシンプルなメカノセンシング機構によって、壁を好むという個体の習性が成り立っている事が分かった。テトラヒメナの餌は壁付近に多く存在しており、生存戦略としても優位性をもつ仕組みである。
同じく遊泳単細胞微生物について、首長形状をもつ繊毛虫Lacrymariaの首の伸縮振動について解析を行い、その粘弾性振動的な動きや、振動状態に着目して4つに分類出来る事を報告した。また、バクテリア集団はその相互作用により短距離で遊泳方向が配向し、中長距離では渦を示して乱流的になっていく事が知られている。この自発的に生成する渦程度の大きさの微小な部屋をPDMS基板によって作成し、そこに閉じ込める事によって定常的な渦を示す状態をつくった。この部屋を複数連結させたとき、連結の幾何学的な条件に応じて渦同士の安定な回転方向が強磁性的になったり反強磁性的になる事を明らかにした。更に、アクトミオシンを液滴に封入した再構成のモデル細胞にプローブ粒子を分散させ、その動きを解析した結果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画に掲げた3つの小課題、1)光照射によるマクロ物体の運動とモード分岐。2)アメーバ細胞とアクトミオシン小胞の両面からのブレブ運動の解明。3)実空間ミクロlimit cycle運動の熱ゆらぎによる確率共鳴駆動。これらについて、1では光照射の自発運動系の運動モード転移の機構を明らかにした。概ね当初の目標に到達しており、発展として化学物質で自己推進する液滴の運動モード転移とその集団運動にも取り組み、新しい集団運動現象を見出した。これは現在論文を準備中である。更に、粒子との相同性を手掛かりに、遊泳微生物の特徴的な運動の解明を目指した実験も行った。これにより遊泳微生物テトラヒメナが見せる壁に張り付く運動が、単純なメカノセンシング機構で成り立っていることを明らかにした。2では自身で変形の駆動力を生み出すアクトミオシン液滴を作成し、表面のゆらぎ運動や座屈変形などを取り出した。対応するアメーバ細胞の運動についても、光による運動モードの変化などを見出し、論文を作成中である。また、生体高分子を封入した膜小胞の新しい作成法などを開発した。3は当初に想定していた目標に到達し、電圧ゆらぎとの共鳴によって規則振動領域を微小スケール側に拡大させる液滴振動系を新たに創り出した。以上の様に、当初の目標に到達した上で、更に進んだ成果を得る事が出来た。
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今後の研究の推進方策 |
研究の総括として得られた成果の論文を順次報告する。更なる発展が得られた内容について、引き続き研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果をまとめた主要な論文の出版費用の請求と支払い手続きが年度内に終了しなかったため。延長した最終30年度の使用計画は、主として論文の投稿掲載料、追加実験等の消耗品、実験試料の長期保管に掛る消耗品に使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
30年度が最終年度であるため、記入しない。
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