研究課題/領域番号 |
26707021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 はるか(丹治はるか) 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40638631)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子エレクトロニクス / 共振器量子電気力学 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、真空場誘起透明化の原理を用いた単一光子による全光型量子スイッチの動作の根幹をなす光パルスの群遅延の増大に向け、高フィネス光共振器および高密度原子集団の準備を行った。 まずプロトタイプマウントを作製し、本研究で用いる高フィネス光共振器の性能を評価した。具体的には共振器ミラーの反射率と共振器中でのビーム径を評価し、原子と光子の相互作用の強さを表す単一原子パラメータを決定した。その結果、このパラメータが先行研究と比べて4倍以上大きくなっていることが明らかになった。さらに、2サイトの準備にあたり、1枚のレンズを用いて原子集団中に2本の独立なレーザー光を集光した際の空間的な分離の可能性を検討した結果、十分に離れた位置に集光することが可能であることを確認した。これらの知見をもとに真空中に導入するための共振器マウントを設計・加工し、その組み立てに着手した。 また、高フィネス光共振器を真空中で安定化するための光学系およびRF回路を作製した。まず、共鳴光に対して間接的に共振器を安定化させるための参照共振器の作製・性能評価を行い、そこに共鳴・非共鳴の2本の光を安定化するための光学系およびRF回路を作製した。これで高フィネス光共振器を真空中で安定化するための準備が整った。 さらに、高密度原子集団を作製するために、超高真空チャンバー内の共振器の中心付近の領域に冷却原子集団を捕捉した。この原子集団の密度を増大させるために、原子集団を圧縮するための機構を開発した。また、原子集団を共振器中に捕捉するためのレーザーを作製しその性能評価を行った。一方、共振器中での光子と原子の結合を最大化させるために最適な原子の配置を実現するホログラフィック原子トラップの形状についての検討を行い、その準備に着手した。 以上により、真空場誘起透明化の原理を用いて光パルスの群遅延を増大させるための準備がおおむね整ったと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度に計画していた高フィネス光共振器および高密度原子集団の準備はおおむね順調に進展した。高フィネス光共振器については、プロトタイプマウントを用いることで大気中における評価の効率化を図った。この結果、単一原子パラメータを迅速に評価することができた。さらに、2サイトへの拡張に際して、原子集団中の2つの集光スポットの空間分離の可能性を計画に先行して行い、その方法を確立した。この結果をもとに、真空中に導入するためのマウントの設計および部品の製作も完了しており、後は組み立て及び真空中への導入を残すだけとなっている。真空中への導入が完了した後の共振器の安定化に向けても、参照共振器やその周辺の光学系およびRF回路について準備が進んでおり、共振器を真空中に導入した後、速やかに安定化の作業に入ることが出来ると考えている。一方、高密度原子集団についても、冷却原子の捕捉に成功しており、ここから密度を上げていくことになる。そのための圧縮機構および、共振器中におけるトラップ用のレーザーの準備が完了している。ホログラフィック原子トラップについては、当初計画していた単純に原子密度を上げる方式のものではなく、共振器との結合強度を向上させることを主目的とした方式の検討を行っている。方針転換を行ったため、ホログラフィック原子トラップの実装には至っていないが、最終的に光子スイッチを実装する際には、原子密度が高いことのみならず結合強度が大きいことも重要であるため、最終的にはより効果的なトラップが作製できると期待される。 以上により、これまでのところ研究計画がおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに準備した装置を統合し、この中での光スイッチの原理実証を目指す。 平成27年度には、平成26年度に準備した高フィネス光共振器を真空中に導入し安定化するとともに、その中で原子を冷却・捕捉し、真空場誘起透明化の再現および群遅延増大の確認を目指す。高フィネス光共振器については、真空に導入するためのマウントの組み立てを完了し、真空チャンバーに取り付ける。そのうえでベーキングおよび冷却を行い、フィネスや光軸が変化しないことを確認する。変化があった場合には、大気中に取り出してその原因を探り、必要に応じて光軸の再調整やミラーの清浄・交換を行った後、再度真空中に導入する。共振器の安定化については、参照共振器に対して共鳴・非共鳴の2本の光を同時に安定化させ、さらに非共鳴光に対して実験共振器を安定化させることにより共鳴光に対して間接的に安定化させる。この安定化が実現した後、原子に起因する共振器の透過率変化や周波数シフトから共振器と原子の結合強度を評価し、共振器の特性から求めたそれと一致するか確認する。一方、ホログラフィック原子トラップを利用して、高密度原子集団を共振器に強く結合させることを目指す。 これらが完了したら、真空場誘起透明化の再現を試み、群遅延が増大していることを確認する。 平成28年度以降には、サイト数を1つから2つに増やし、光スイッチの動作確認およびスイッチングによる位相変化の評価を通じて、この方式の光スイッチの量子ゲートとしての性能評価を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ホログラフィック原子トラップのために購入した狭帯域単一縦モードファイバーレーザーが、交渉の結果予算申請の際の参考見積もりよりも大幅に安価に購入できたため。また、共振器の構成を再検討した結果、以前に別の研究用に購入した予備ミラーをそのまま利用することが可能であることが明らかになったため。
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次年度使用額の使用計画 |
共振器の構成が変更されたため、真空チャンバーに取り付けるための真空対応部品および光学素子が新たに必要になるので、その購入費用に充てる予定である。
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