全光型量子スイッチに用いる実験共振器の安定化に向けては、安定化に使用する光が共振器内の原子に及ぼす影響を低減するために、原子の共鳴から大きく離調させた非共鳴光を用いる必要がある。さらに実験共振器の共振周波数が原子の吸収線に対して安定化されている必要があるため、共振器の安定化に用いる非共鳴光もまた原子の吸収線に対して安定化されている必要がある。そこで本研究では、これまで非共鳴光と共鳴光を相対的に安定化させるための参照共振器の開発を行ってきており、平成29年度には機械的安定性を高めた一体型参照共振器を構築した。平成30年度には、この共振器について、まず温度による共振器長の変化を防ぐための温度安定化機構を構築した。さらに、波長780 nmのRb原子の共鳴光と実験共振器の安定化に用いる波長760 nmの非共鳴光における参照共振器の線幅を評価した。その結果、それぞれ870 kHzと620 kHzという値が得られた。これらの値と各光源の線幅および760 nmにおける実験共振器の線幅から最終的に得られる、原子の吸収線に対する実験共振器の共振周波数の安定度を算出したところ1.5 MHzとなり、Rb原子の自然幅(6 MHz)よりも狭い領域で安定化できることが明らかとなった。しかしながら、この安定性を得るためには、原子の吸収線に対して共鳴光を、共鳴光に対して参照共振器を、参照共振器に対して非共鳴光を、非共鳴光に対して実験共振器をそれぞれ安定化することが必要となり、それら全てを同時に実現した状態を長時間維持することは困難であることが予想される。そこで、参照共振器による安定化と並行して、新たによりシンプルな方法として、別の原子(具体的にはK原子)を利用した実験共振器の安定化の方法を考案し、その実現可能性について検討した結果、十分な安定性が得られることが分かったため、その実験系の構築に着手した。
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