研究課題
太陽系の氷天体は、原始太陽系円盤の温度分布や惑星移動の検証、生命につながる化学進化やハビタビリティの理解という、現在の惑星科学にとっての大問題に対して重要なヒントを与えうる天体である。しかし、その表面や内部の物質は現在までの熱進化によって変成を受けており、それらから材料物質を知ることは容易ではなく、内部海のpHや酸化還元状態、温度を推定することも不確定性が大きい。本課題では、氷天体内部の熱水反応のキネティクッスを室内実験により明らかにする。得られた実験結果を内部海物質進化モデルに組み込み、観測される表面や内部の物質から、天体の材料物質や熱進化、内部海の温度・組成を明らかにすることを目指す。当該年度では、太陽系氷天体内部を模擬した熱水反応実験を行い、温度、鉱物、溶存種といったパラメタを変化させて、内部海の化学的特性を決定する鍵となる素反応過程の特定を行った。特に、内部海物質を宇宙に放出していることが知られる土星の氷衛星エンセラダスに着目し、探査機カッシーニによる内部から噴出するプリュームの観測データを解釈した。具体的には、観測結果であるプリューム中のナノシリカの存在を説明するためには、内部海の海底に温度90℃以上の熱水環境が現存することを明らかにした。本成果は、エンセラダスに液体の水、有機物、エネルギーという、生命に必須の3大要素が、現在でも存在することを示すものである。この結果は、原始的な微生物を育みうる環境が、地球以外の太陽系天体に現在も存在することを初めて実証したものであり、地球外生命の発見に向けた大きな前進である。
1: 当初の計画以上に進展している
当初予測していなかった探査機カッシーニからのデータ(エンセラダスからのプリュームにナノシリカが存在していること)に対して、独自の熱水反応実験によって世界に先駆けてこれを解釈し、地球以外で生命を育みうる環境が現存することが実証したことは極めて大きな成果である。このような環境が現存することが実証されたのはエンセラダスが初めてあり、今回の成果は“生きた地球外生命の発見”という自然科学における究極のゴールに迫る大きな飛躍である。成果は Nature 誌に掲載された他、各種マスコミにも大々的に報道された。
氷衛星エンセラダスについては、温度環境だけでなく、内部の岩石組成や溶存種の制約を行うため、引き続き熱水実験を継続する。さらに、他の太陽系氷天体へと知見や実験技術を拡張し、ドーン探査機による準惑星セレスの観測結果の解釈を行っていく。
平成26年10月、熱水予備実験の結果、当初の熱力学平衡計算の結果に反して、反応の圧力依存性が極めて大きいことが分かった。本研究の遂行上、特に衛星内部環境を特定する上で、圧力依存性に特化することが本質的に重要になることから、実験装置であるオートクレーブの圧力性能を向上させる必要が生じた。
平成27年度3月を目途として、圧力性能を向上させたオートクレーブを作成し、実験を実施する。このための改良型オートクレーブの購入資金として、繰越金を使用する。
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