研究実績の概要 |
本研究では、太陽系氷天体の内部海の化学的多様性(酸化還元状態、pH)とその形成要因を明らかにすることを目的とする。これまで、土星衛星エンセラダスについて、探査機カッシーニの観測を解釈することで、内部の熱水環境の特定を行い世界をリードする研究を展開してきた (Hsu, Postberg, Sekine, et al., 2015, Nature: Sekine, et al., 2015, Nature Communications)。 当該年度では、この知見を他天体へと展開し、内部海の化学特徴の形成要因を明らかにする研究を行った。 まず、準惑星セレスの表面に存在するアンモニウムを含む層状ケイ酸塩鉱物から、内部海のpHを推定した(Sekine et al., 2016, Goldschmidt Conference; 投稿準備中)。この表面物質を説明するためには、セレスの内部海のpHが中性であることが必要であることを実験的に示した。そして、中性の海が形成するためには、原始太陽系円盤において、始原的な硫黄が酸化される現在の軌道よりも外側の低温領域 (50-100 K)でセレスが形成したことを示した。この結果は、太陽系初期に天体のダイナミックな移動があったことを示唆する。 また、冥王星の表面に見つかった赤道領域(クトゥルフ領域)に広がる褐色の有機物の起源が、衛星カロンを形成した巨大天体の衝突であることを示した (Sekine et al., 2017, Nature Astronomy)。 この研究は、内側太陽系同様、カイパーベルトにおいても巨大衝突頻繁に起新たな描像を提案するものであり、やはり初期太陽系における天体のダイナミックな移動を強く支持する。両者を統合すると、内部海の形成進化において、初期の物質移動と熱進化が極めて重要であったことが実証的に確かめられたといえる。
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