研究課題
地質試料を用いた古気候復元解析は,地球環境変動を理解する上で重要な手法の一つである.近年では,中国を中心に,石筍を用いた第四紀の気候変動解析(例えば,アジアモンスーンなど)に関する知見が蓄積されつつあるが,琉球列島においては完新世の環境変動を代表する石筍データは得られていない.そこで,本研究では,琉球列島の複数の石筍について化学分析を実施し,完新世における琉球列島の陸域環境(気温,降水量)の長期時系列データを抽出し,サンゴの海洋プロキシデータとの解析から大気ー海洋間の変動史を復元することを目的としている.2014年度は,琉球列島の鍾乳洞(石垣島,沖縄島,沖永良部島の3島9鍾乳洞)において定期現場調査を開始した.ロガーによる洞内環境(気温,湿度など)の連続観測,二酸化炭素濃度計測,環境水の採取などを行った.鍾乳洞管理者の許可を得て採取した複数の石筍試料について,切断,整形,研磨を行い,化学分析用の粉末サンプルを採取した.安定酸素炭素同位体比分析の結果,石筍試料の形成年代は完新世であると推定され,明瞭なハイエイタス(形成中断)もみられないことから,本研究の目的に合致する最適な石筍試料を選別することができた.2014年度に導入したX線画像読取装置システムのセットアップと予備的な実験を行った結果,石筍試料の縞構造の撮影と画像解析が可能であることを確認した.2014年度はレーザーアブレーションシステムに不具合が生じ,微量元素組成の高解像度分析を当初の計画通り実施することができなかったため,安定酸素炭素同位体比分析を精力的に実施した.野外調査の結果と化学分析の結果を解析し,本年度に得られた成果を2015年度の国内外の学会など(例えば,国際第四紀学連合第19回大会などを予定)で発表する.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,概ね2014年度研究実施計画どおりに進められた.具体的な理由は,1)琉球列島における異なる3地点(石垣島,沖縄島,沖永良部島)の複数の鍾乳洞で現場観測を実施し,次年度以降も継続できる目処が立ったこと,2)鍾乳洞管理者の許可を得て,複数の石筍試料を採取することができたこと,3)本年度に導入したX線画像読取装置システムのセットアップと予備実験を完了したこと,4)数多くの石筍の切断整形と化学分析用の粉末ミリングを行ったこと,5)安定酸素炭素同位体比分析により石筍の形成年代を推定し,本研究目的に合致する最適な試料を選定することができたこと,6)比較対象とするサンゴ骨格年輪データの蓄積と解析が進展したこと,7)次年度に開かれる国際第四紀学連合第19回大会への発表投稿が受理され,本年度に得られた成果を発信できる予定であること,である.なお,共同研究者の事情により,ウラン系列年代測定は2015年度前期に実施を延期し,また,レーザーアブレーションシステムに不具合が生じたため,微量元素組成の高解像度分析を当初の計画通り実施できなかった.この点で進捗状況が予定よりは若干遅れているものの,その他の野外調査データや化学分析データが予想以上に蓄積されたことから,本研究は概ね順調に遂行されていると判断される.
基本的に2015年度の研究実施計画どおりに進めていく予定である.定期的な野外調査,試料整形,縞構造解析,化学分析を推進する.ウラン系列年代測定は2015年度前期中に開始できるよう調整する.レーザーアブレーションシステムが復旧し次第,微量元素組成の高解像度分析を開始する.得られた成果は国際学術雑誌に投稿するとともに国内外の学会で発表する.
2014年度3月に予定していた現地野外調査の調整がうまくいかず,次年度に延期になったため,その分の旅費と謝金を次年度に繰り越すこととなったため.
2014年度3月に予定した現地野外調査を2015年5月下旬~6月上旬で実施する予定である.
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Marine Pollution Bulletin
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.marpolbul.2015.02.037
Island Arc
in press
巻: 24 ページ: 61-72
10.1111/iar.12076