本研究では代表的な硫黄含有星間分子である,硫化水素(H2S)の化学進化に関する実験的な研究をおこなった。H2Sは極低温表面上で水素(H)原子,重水素(D)原子と反応可能であることがわかった。H原子と反応した場合にはH2SのHが引き抜かれ,生成したHSラジカルがさらにH原子と反応して,元のH2Sを生成すると予想された。しかし実際にはH2S存在量はH原子供給とともに減少していった。これは,H2S生成時の生成熱を利用した化学誘起脱離によると結論された。 H2SがD原子と反応すると,H2SのD置換体(HDS,D2S)生成が確認された。これは星間分子雲や彗星に存在する硫化水素のD濃集の起源だと推測される。
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