研究課題/領域番号 |
26708003
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
清水 宗治 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70431492)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポルフィリン / フタロシアニン / BODIPY / 光物性 / 複合材料・物性 |
研究実績の概要 |
ポルフィリン(Por)・フタロシアニン(Pc)は光学材料・有機半導体材料として、現代社会の諸問題の解決・改善を指向して広く研究がなされている機能性分子である。これらの分子の優れた機能性は、分子構造・電子構造に起因しており、各応用研究に必須の物性を発現させるためには、既存の分子骨格の流用ではなく、分子物性と構造相関の解明に根ざした新たな分子設計と研究の視点が必要不可欠である。本研究ではPorおよびPcの応用研究に利用可能な潜在的な分子物性を引き出すべく、①Por・Pcの特性を活かした機能性分子の創出および物性解明、②Por・Pcの機能性に関与している部分骨格を基盤とした機能性分子の創出と物性解明、③Por・Pcの集積化法の開発と物性発現において、基礎研究から応用につながる基盤研究までを展開する。 研究初年度である本年度は①では優れたCPL特性の発現を指向して、光学活性なサブポルフィリンの合成を行った。最終的に外周部に縮環構造を1ヶ所有するC1対称性の分子において、光学分割に成功し、キラリティに対応してCDおよびCPLを観測した。CPLのg値はこれまでに合成した光学活性サブフタロシアニンと同程度であったが、分子の対称性が低いことを考慮すると、禁制のQ帯吸収を用いることで、g値の改善が示唆された。 ②では中心のπ系骨格として、ベンゾジピロリドンやイソインディゴを有するaza-BODIPY類縁体の合成に成功し、これらがフラーレン類縁体と同程度の深いLUMOを有することを見出した。このことは電気化学的性質を大きく変えることなく、光学特性のみを調整しうることを示しており、本手法の有用性が示された。また配位高分子化についても現在、検討を行っている。 ③についてはフタロシアニンを配位高分子へと展開するのに最適な外周部配位部位の探索を行っており、次年度において合成研究を開始する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画初年度である本年度は全ての研究テーマにおいて、基盤となるポルフィリン(Por)およびフタロシアニン(Pc)類縁体の合成あるいは分子骨格の探索を行った。 まず①Por・Pcの特性を活かした機能性分子の創出および物性解明では、これらの分子の大きな軌道角運動量を活かした物性として、CPLの発現を試み、目的分子であった光学活性サブポルフィリンの合成に成功した。現在、吸収および磁気円偏光二色性スペクトルから、CPL特性に関係する各遷移双極子モーメントの解析を行っており、次年度の分子設計へとつながる成果が得られたと評価できる。 また②Por・Pcの機能性に関与している部分骨格を基盤とした機能性分子の創出と物性解明では、新たな分子の合成に成功しただけでなく、Por・Pcの部分骨格をつなぐ中心π系骨格が、これらの分子の光学および電気化学的物性に大きく影響することを示唆する結果が得られた。またこれらの分子は低い還元電位を有していることから、電子アクセプター性を持つと考えられ、今後、有機薄膜太陽電池におけるn型材料として展開が期待できる。 ③Por・Pcの集積化法の開発と物性発現では外周部配位部位の探索が研究の重要な位置を占めているが、分子モデリングなどにより一定の指針が得られたことから、次年度において合成研究を進める準備が十分に行えたと言える。 以上のように初年度である今年度は合成および分子設計において、大きな進展が得られたことから、本研究計画全体として当初計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画次年度以降は前年度の結果を基にさらに分子設計を進め、応用研究に展開可能なポルフィリン(Por)およびフタロシアニン(Pc)の潜在的な分子物性の開拓を行う。 ①Por・Pcの特性を活かした機能性分子の創出および物性解明では、前年度に合成した光学活性サブポルフィリンのCPL特性に関与する吸収・発光における遷移電気双極子モーメントと遷移磁気双極子モーメントの解析から、さらに分子設計を進め、CPL特性の指標である異方性因子(g値)の改善を試みる。分子設計においては大きなブレークスルーを期待して、他の分子系で高いCPLのg値を示すものを同様に解析して、積極的に取り入れる。 また本テーマのもう一つの目的物性である単分子磁性の発現を指向して、その基盤となる環拡張ポルフィリンおよびフタロシアニンの合成検討を開始する。 ②Por・Pcの機能性に関与している部分骨格を基盤とした機能性分子の創出と物性解明では、いくつかの基盤分子の合成に成功しているので、今後はPPABの配位高分子化などによる集積化について研究を行い、最終的な有機伝導体や有機薄膜太陽電池への応用展開を指向して、必要な物性について知見を蓄積する。 ③Por・Pcの集積化法の開発と物性発現では前年度に得られた外周部配位部位の分子設計に基づいて、合成研究を進めていく。
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