研究課題
これまではリチウムイオン電池の代替としてマグネシウム金属電池に着目し、研究を行ってきた。その結果マグネシウムの充放電が可能な配位高分子を見出してきた。しかしマグネシウムは負極の酸化皮膜により大きな過電圧が発生するという問題があった。そこで本年度は多価金属としてガリウムに着目し研究を行った。ガリウムは3価の金属イオンであり、3電子を充放電できることから大きな充放電密度を達成できると期待される。さらに金属がリウムは30 ℃程度で液体となるため、表面の酸化皮膜の問題も解決できると期待できる。しかし3価の金属イオンを取り込み、放出することの出来る材料は皆無であるため、未開・未踏の領域であった。今回我々は、ガリウム金属電池向け正極材料として、MIL-100(Fe)およびMIL-101(Fe)に着目した。これらはマグネシウムイオンを可逆に吸脱着できることがわかっていることから、ガリウムイオンの取り込みも可能と考えた。ガリウム金属電池用の電解液として種々検討したところ、三価のガリウムイオンが極めて強いルイス酸性を有しており、TF2Nを含む多くのアニオンを分解してしまうことがわかった。そこで最も安定性の高い塩としてトリフルオロメタンスルホン酸塩を用い、アセトニトリル溶液中で評価を行った。また負極として金属ガリウムを用い、酸化溶解・還元析出挙動の評価をサイクリックボルタンメトリーにより行ったところ、30℃付近を境に溶解の過電圧が0.5V程度減少することがわかり、液体負極を用いることで過電圧を大幅に抑制できることが実証された。さらに正極としてMIL-100(Fe)およびMIL-101(Fe)を用いて充放電試験を行ったところ、DOD 30%程度、7サイクル程度ではあるが、可逆な充放電挙動が見出された。これらの結果より、世界初のガリウム金属二次電池の発明に成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
マグネシウム金属電池の正極材料として配位高分子を初めて使用し、マグネシウムの充放電に成功した。これまでいくつかのマグネシウム金属電池向け正極材料が報告されているが、中でも安定性、レート特性などが優れた材料であることがわかった。さらに本年度には、誰も報告していないガリウム金属電池を世界で初めて作成し、可逆な充放電に成功した。その結果、配位高分子のようなナノ多孔性電極材料を用いることで、2価の金属イオンだけで無く、3価の金属イオンを用いても金属イオンの可逆な吸脱着が可能であることが示された。さらに金属ガリウムを用いることで、固液相転移を利用した液体負極という新しいコンセプトを提案することも出来た。これらの結果は、当初の計画を超え、マイクロ孔のイオニクスが実用上極めて重要であることを示す成果になっていると考える。
今後は電極材料の調整方法などを検討してサイクル・DOD・レート特性などを向上させ、ガリウム金属電池の特性を評価する。さらに負極の固液相転移に伴う充放電特性の評価も行う。また細孔内に取り込まれたガリウムやマグネシウムイオンがどのような伝導挙動を示すか、交流インピーダンス法などにより評価を行う。
研究計画上必要な装置の納入に時間がかかったため。現在購入手続き中である。
残高は備品購入に充てる予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 5件)
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