研究実績の概要 |
トリメチルシリル基を導入した有機ケイ素化合物を還元剤として用いて、前周期遷移金属や後周期遷移金属、さらには、有機化合物の還元反応への展開を検討した。特に、今年度は有機化合物への適用可能性について精力的に研究を実施し、有機化合物中の炭素―ハロゲン結合を還元的に切断できることを明らかにした。具体的には、隣接した炭素原子にそれぞれハロゲンを有するジハロ化合物の還元によるアルケン形成や、αーハロカルボニル化合物の還元によるシリルエノールエーテル合成が非常に効率よく進行することを明らかにした。さらに、芳香族ニトロ化合物を基質として有機ケイ素還元剤との反応を行ったところ、室温、15分でニトロ基の脱酸素化反応と還元的シリル化によるN,O-ビス(トリメチルシリル)ヒドロキシアニリン誘導体がほぼ定量的に生成することを明らかにした。通常はヒドロキシアニリンを別途合成した後にシリル化を行うことで同じ化合物が得られることから、本手法はニトロ化合物を原料とした直接的な合成法である。また、N,O-ビス(トリメチルシリル)ヒドロキシアニリン誘導体は加熱処理を行うことでナイトレンを与えることから、有機ケイ素還元剤を用いることで、ニトロ化合物からナイトレン形成に至る反応を塩の発生を伴うことなくワンポットで実施可能であることを見出した。 有機ケイ素還元剤の有機化合物に対する高い反応性を遷移金属触媒反応と組み合わせることで、従来にはない独創的な反応開発が可能となると考え、亜鉛やマンガンなどの金属粉末に代わり、有機ケイ素化合物存在下での様々な遷移金属触媒反応を実施したところ、有機ケイ素還元剤がアセトニトリルを還元的に活性化し、その炭素―炭素結合切断を伴ったシアノ化反応が効率よく進行することをが分かった。すなわち、金属錯体触媒反応と有機ケイ素化合物の還元作用をハイブリッドした触媒系の開発に成功した。
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