研究課題/領域番号 |
26708017
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 茂樹 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60552784)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | キラリティ |
研究実績の概要 |
ラマン光学活性(Raman Optical Activity; ROA)は分子立体配座に鋭敏な分光法であり,新たな原理に基づいた溶液中タンパク質の立体配座分析法となりうる。しかし,検出感度が低く,解析法が確立していないという課題がある。 我々の量子力学によるROA構造解析法の開発においては,熱変性したインスリンをモデルとし,ROAによるアミロイド線維の高次構造解析法の開発を行った。結晶状態においてβシート構造を持つタンパク質のペプチド構造角をインスリン単量体へ転写し,βシートおよびターン構造を持つモデル構造を作製した。このモデル構造についてROAおよびラマンスペクトルを量子力学により計算した。これにより,インスリンアミロイド線維が天然状態へ構造回復する際に観測されるROAおよびラマンスペクトルの主要な変化を再現することに成功した。この結果は,今回採用したモデル構造が,現実のインスリンアミロイド線維の構造に近い構造であることを示しており,量子力学によるROA構造解析法が可能であることを示した重要な結果である。 高感度ROA装置の開発については,昨年度に引き続き高強度レーザーを用いた全周囲型ROA測定装置の組み立てを行った。ROA信号は微弱であるため,装置光学系の偏光特性の不完全性から影響を受けやすい。開発した装置においては装置由来の偽信号が発生し,正確さの高い測定を行うことが困難であった。これを解決するためにラマン散乱光の直線偏光成分を平均化し,偽信号の発生を抑える回転波長板装置部品の設計および試作を行った。この部品が完成次第,装置に組み込む予定である。上記の高感度ROA装置を用いて,インスリン濃度を変え,インスリンアミロイド線維の天然化過程の構造変化を分単位で測定する。得られた多数のROAスペクトルを解析し,アミロイド線維の天然化過程に高次構造が何種類存在するのか明らかとする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インスリンアミロイド線維のラマン光学活性(Raman Optical Activity; ROA)スペクトルをモデル構造に基いて計算し,さらにインスリンアミロイド線維が天然状態へ構造回復する際に観測されるROAおよびラマンスペクトルの主要な変化を再現できたことは, ROAによってアミロイド線維の立体配座を詳細に解析できることを示せた点で非常に重要な結果であり,本研究にて達成する予定の,量子力学計算を用いたアミロイド線維のROA立体配座解析法の開発を大きく推進した。この理由から,本年度に行った量子力学によるROA構造解析法の開発は高く評価できる。 高感度ROA装置の開発については,予想外に装置由来の偽信号が大きいことが明らかとなったが,その解決策としてラマン散乱光の直線偏光成分を平均化し,偽信号の発生を抑える回転波長板装置部品を用いることを考え,その設計および試作を行えた。この事は,高感度ROA装置の開発を大きく前進させると考えられるため,評価に値する。 以上のことから,「おおむね順調に進展している」を自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
高感度ROA装置を早急に開発し,これを用いて,インスリン濃度を変え,インスリンアミロイド線維の天然化過程の構造変化を分単位で測定可能とする。得られた多数のROAスペクトルを解析し,アミロイド線維の天然化過程に高次構造が何種類存在するのか明らかとする。 上記装置を用いて得られたROAスペクトルに基づき,インスリンアミロイド線維にROA構造解析法を適用し,アミロイド線維がβシートからαへリックス構造へ構造回復する全過程の高次構造分布を数分の時間分解能で解析し,構造変化の起こるペプチド部位(βシート,βターン構造の消失,PP-IIへリックス構造の生成,“水和αへリックス”構造の回復,チロシン基の水和状態変化,三次構造の変化などの順番)と,変化の起こる順番を明らかとし,高次構造変化の原因を探る。結果の妥当性を検討する為に,可能な限りNMRなど他測定結果との比較検討を行う。さらに,他のアミロイド形成タンパク質(シヌクレイン,βラクトアルブミン,アミロイドβなど)に上記ROA構造解析法を適用し,アミロイド線維形成過程に共通の構造変化の存在を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
48,610円の繰越金は、タンパク質試料の購入に当てる予定であったが、試料の消費が少なくて済んだため、翌年度へ繰り越し使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した研究費と合わせた使用計画としては、試薬の購入に45万円、光学部品およびガラス器具の購入に80万、国際学会を含めた学会参加費として60万を使用する。
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