研究課題/領域番号 |
26708018
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荘司 長三 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (90379587)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細菌 / ヘム / 蛋白質 / 鉄 / ヘム獲得蛋白質 / 増殖阻害 / 金属錯体 / 光殺菌 |
研究実績の概要 |
緑膿菌は,体内に豊富に存在する鉄ポルフィリン錯体(ヘム鉄)を鉄分として獲得することを目的として,ヘム鉄獲得蛋白質(HasA)を分泌してヘム鉄を奪い取るシステムを有する.鉄欠乏状態で菌体外に放出されたHasAは,ヘム鉄を捕捉すると緑膿菌に戻り,菌体表面に存在する特異的受容体蛋白質(HasR)にヘム鉄を受け渡す.本研究において、HasAが鉄サロフェンや鉄フタロシアニンなどの平面性の高い合成金属錯体を捕捉可能であることを明らかにした.蛋白質X線結晶構造解析により,鉄サロフェンと鉄フタロシアニンを捕捉したHasAの構造を原子レベルで明らかにすることにも成功し,これらの合成金属錯体を捕捉したHasAの構造は,ヘム鉄を捕捉したHasAとほとんど変わらないことを明らかにした.(1) 鉄フタロシアニンを結合した「偽のHasA」を鉄制限状態の緑膿菌に作用させると,その増殖を高度に抑制できることを明らかにした.様々な条件での阻害実験から,鉄フタロシアニンを結合した「偽のHasA」自体には毒性はなく,「偽のHasA」が,HasAを介するヘム鉄の取り込みを阻害することで緑膿菌の増殖が抑制されていることを実証した.緑膿菌の外膜に存在するHasAの特異的受容体蛋白質のHasRは,鉄フタロシアニンを結合した「偽のHasA」と,本来の標的であるヘム鉄を結合した「本物のHasA」を区別することができず,「偽のHasA」によりHasRの取り込み口が塞がれてしまうために,緑膿菌への鉄分の供給が遮断され,緑膿菌が増殖できなくなったと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
緑膿菌のヘム獲得タンパク質であるHasAがヘムとは異なる骨格を有する様々な鉄錯体を捕捉可能であることを明らかにした.合成金属錯体を結合したHasAの結晶構造解析によりHasAがヘムと同様の様式で合成金属錯体を結合していることを確認した.また,鉄-フタロシアニンを結合したHasAがHasRを介するヘム獲得を阻害し,緑膿菌の増殖を阻害できることを見出した.さらに,2μMのガリウムフタロシアニンを結合した「偽のHasA」を緑膿菌に作用させて可視光を5分間照射するだけで,99.9%以上の緑膿菌を殺菌することができる,非常に優れた緑膿菌の光殺菌手法を開発した.光殺菌手法は,多剤耐性緑濃菌に対しても有効であると考えている。我々の予想以上に光殺菌が効果的であり,臨床試験に向けた取り組みを開始しており、当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
非常に少量のガリウムフタロシアニン結合HasAを添加し,150分間光照射した場合にも,99.9%以上の緑膿菌が殺菌できることを確認した.光照射は,過剰のガリウムフタロシアニン結合HasAを取り除いた状態で行っているため,緑膿菌の外膜に固定化された非常に少量のガリウムフタロシアニン結合HasAが光殺菌に寄与していると考えられる.ガリウムフタロシアニンを結合した「偽のHasA」がHasAの選択的受容体のHasRと結合していることが光殺菌に重要であることを示唆するいくつかの結果が示されたが,HasRの発現量との相関が無いことも併せて観測されており,ガリウムフタロシアニンを結合した「偽のHasA」による光殺菌の機構については,HasR遺伝子欠損株を用いて調べていく予定である.また,合成金属錯体を取り込ませたHasAとHasRの相互作用,および金属錯体がHasRに受け渡されているのかなどを明らかにするために,合成金属錯体を結合したHasAとHasRの共結晶化とX線結晶構造解析を視野に入れて,HasRの発現と精製,結晶化に取り組む.また,あわせて,合成金属錯体を捕捉したHasAとHasRの相互作用を本来のヘムを捕捉したHasAとの比較することで調べる.そして,HasAに結合させる合成金属錯体の構造や中心金属の違いと緑濃菌の増殖阻害と光殺菌効果の関連を明らかにする.
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