細胞内に数コピーしか存在しないmRNAを観測する手法として、特定のRNA配列が存在する場合に蛍光が増幅されるシステムの構築を目指した。既に得られているルテニウム(II)トリスビピリジン錯体に結合するRNAアプタマーを利用して、ルテニウム錯体の細胞内への取り込みの観察を行ったもののアプタマーの有無で細胞内の蛍光分布に優位な差は得られなかった。そこで、RNAアプタマーとルテニウム(II)トリスビピリジン錯体の結合状態について詳細に調べることとした。具体的には、好気下と嫌気下の条件下での、ルテニウム錯体の光励起状態の寿命を測定した。その結果、好気下においてはルテニウム錯体にRNAアプタマーが結合することでルテニウム錯体の励起状態の寿命が4倍の伸びること、その一方でアプタマー結合時の励起状態の寿命は酸素濃度に依存しないことが明らかとなった。これは、ルテニウム錯体の励起状態から酸素へのエネルギー移動がアプタマーの結合によって抑制されることを示している。一方で、メチルビオロゲンを使った二分子間の消光速度を調べた結果からは、ルテニウム錯体からの電子移動はアプタマーの存在によって抑制されないことが分かった。このことから、アプタマーはルテニウム錯体の励起状態のエネルギーをエネルギー移動ではなく電子移動に使うように仕分けていると考えられた。
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