研究課題/領域番号 |
26708021
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平野 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, ナノ材料研究部門, 主任研究員 (90613547)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ナノチューブ・フラーレン / 蛋白質 |
研究実績の概要 |
本研究ではカーボンナノチューブをリガンドとするカラムを作製し、光を使用した蛋白質精製システム「光クロマトグラフィ」を開発する。本精製法では、光照射により蛋白質のカラムへの吸着を制御し、従来には無い蛋白質の溶出法を確立させる。当該年度ではカーボンナノチューブを結合させた担体を用いて、カーボンナノチューブに対する蛋白質の吸着力をバッチ吸着試験で評価した。モデル蛋白質としては、ニワトリ卵白リゾチームを用いた。蛋白質をカラム溶出するためには、カーボンナノチューブに対する蛋白質の非特異的な吸着を防ぐことも重要であり、アミノ酸の一つであるアルギニンが非特異的吸着の抑制に有用であることを見出した。さらに、カーボンナノチューブへの蛋白質の吸着は主として芳香族アミノ酸によって引き起こされるものであることを、カーボンナノチューブを固定化したカラムクロマトグラフィにアミノ酸を流す実験で明らかにした。芳香族アミノ酸の中でも、とりわけトリプトファンのカーボンナノチューブに対する親和性が強いことが示された。また、これらの一連の研究の過程で、アミノ酸の一つであるシステインがカーボンナノチューブと反応してジスルフィド結合を形成することを発見した。この結果は蛋白質をカーボンナノチューブをリガンドとするカラムに流す際に、蛋白質の構造変化や会合を引き起こす可能性を示唆するものであり、ジスルフィド結合形成反応を抑制することも本テーマを完成させる上で必須であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に遠心分離器の故障があり、繰越申請などを行ったため、一部の研究進捗がやや遅れている。しかしながら、最終年度に予定していたカーボンナノチューブカラムを前倒しで試作することに成功し、カラム中でのアミノ酸の挙動などを明らかにするなどの一定の成果を出すことができており、全体的には概ね順調と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に明らかになったカーボンナノチューブと蛋白質またはアミノ酸との相互作用に関する知見をもとに、蛋白質分離用の光クロマトグラフィを完成させる。そのためには、カーボンナノチューブに対する蛋白質の非特異的な吸着や化学反応をさらに抑制するための溶液条件の検討を行う必要がある。必要に応じて分子動力学計算を利用し、その分子機構を明らかにする。加えて、最近の研究進捗によって、カーボンナノチューブの表面物性は光だけでなく、酸化還元剤に寄っても制御可能であることが明らかになってきた。今後も引き続き酸化還元剤の影響なども考慮し、蛋白質の適切な分離法を確立させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に遠心分離器の故障があり、繰越申請などを行ったため、一部の研究進捗がやや遅れており、予定していた消耗品の購入を延期したため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に明らかになったカーボンナノチューブと蛋白質またはアミノ酸との相互作用に関する知見をもとに、次年度は蛋白質分離用の光クロマトグラフィを完成させる予定である。そのためには、カーボンナノチューブに対する蛋白質の非特異的な吸着や化学反応を抑制するための溶液条件の検討が必要がある。これらの溶液条件の検討のための研究試薬の購入に当該研究費を用いる予定である。
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