当該研究ではカーボンナノチューブをリガンドとするカラムを作製し、新規の蛋白質の精製システムを開発することを目的としている。当該精製システムでは、光照射により蛋白質のカラムへの吸着を制御し、従来にはない蛋白質の溶出法を確立させる。当該年度では昨年度までに明らかになったカーボンナノチューブによるシステインのジスルフィド結合形成の物性を詳しく調査することで、カーボンナノチューブと蛋白質の相互作用を詳細に理解することに注力した。その結果、カーボンナノチューブの溶液中での酸化還元反応がシステインのジスルフィド結合の酸化還元反応と共役していることが明らかになった。このようなカーボンナノチューブとシステインの相互作用は還元変性させたニワトリ卵白リゾチームやヒト血清アルブミンにおいても観察されたことから、カーボンナノチューブと蛋白質のシステイン残基の間に起こる普遍的な化学反応の一つであることが示唆される。加えて、水溶液中におけるカーボンナノチューブの酸化還元反応はカーボンナノチューブ表面に吸着した分子の構造や密度に影響を受けることが分子動力学計算と分光学的実験から明らかになった。以上のように、当該研究ではカーボンナノチューブとシステインの化学反応という予想外の物性が明らかになり、この物性の全容解明が当該技術の開発に必須であると考えられたため、当初予定していた光照射による溶出の実証は今後検討することになる。
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