研究課題/領域番号 |
26708022
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 卓巳 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (60635168)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光エネルギー変換 / 近赤外光電変換 / 色素増感太陽電池 / タンデム型太陽電池 / スピン軌道相互作用 / 相対論的量子化学 / ペロブスカイト太陽電池 |
研究実績の概要 |
本研究では、色素増感太陽電池の大幅な広帯域化を実現するために、スピン反転励起のメカニズムの解明と、広帯域・超高効率色素増感太陽電池の実現へと展開するためのデバイス設計を確立する事が目的である。今年度は、昨年度までの進捗を踏まえ、I.分子軌道法によるスピン反転励起の制御法の開拓、II.広帯域DSSCの長波長化に向けた色素励起状態の制御、III.広帯域色素を用いた高効率タンデム型太陽電池の構築を重点的に進めた。以下に本年度の概要を示す。 I.分子軌道法によるスピン反転励起の制御法の開拓 (1)昨年度までに、分子軌道論と相対論を組み合わせた検証を行うことにより、特定の構造を持つRu錯体の励起状態でスピンが反転する機構が明らかになっていたが、今年度ではそれらをさらに一般化することにより、励起状態の軌道対称性について必要な条件を見出した。(2)配位子場の制御によってスピン反転励起の遷移エネルギーを自由に制御させられることを示し、実デバイスへの応用を可能にした。 II.広帯域DSSCの長波長化に向けた色素励起状態の制御 (1)スピン反転励起の長波長化を配位子場によって制御することにより、多彩な励起波長を示す色素を多数合成することができた。(2)スピン反転励起の振動子強度を向上させられる分子構造を新たに見出し、色素の吸収係数の向上に成功した。(3)サブピコ秒時間分解過渡吸収測定により、光励起による直接的な励起三重項状態の生成を確認する事が出来た。 III.広帯域色素を用いた高効率タンデム型太陽電池の構築 (1)広帯域色素増感太陽電池との複合デバイスを作製するにあたり、個々のデバイスのエネルギーギャップにあわせた構造最適化を行うことにより高性能化を実現した。(2)ペロブスカイト太陽電池との複合デバイスでは21.5%のエネルギー変換効率を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画において今年度は、広帯域DSSCの長波長化に向けた色素励起状態の精密制御について重点的に計画を進める予定であったが、当初の計画以上の成果が得られた。色素の励起状態の制御については、昨年度までに大まかな手法が見出されていたが、今年度はそれらをさらに理論ベースで一般化し、軌道対称性に着目することによって分子設計が容易に行えるようになった。また、スピン反転励起の遷移確率にも着目し、大きな吸収係数を示す色素の開発にも成功した。一方、昨年度から行っている分光タンデム型太陽電池では、可視光を吸収する有機ハライドペロブスカイト太陽電池のエネルギーギャップの調節と、デバイス構造の最適化により更なる効率向上を実現した。特に、外部機関での測定により高い性能が確認されたデバイスを用い、21.5%のエネルギー変換効率を達成することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の当初の目標である、(1)スピン反転励起の起源解明と制御、(2)酸化チタンへの電子移動の最適化、(3)広帯域DSSCの長波長化に向けた色素励起状態の精密制御、(4)広帯域色素を用いた高効率タンデムセルについては,既に当初の計画以上の成果が得られている。今後は、広帯域色素増感太陽電池の光捕集能力の向上に向けた分子設計を進めると同時に、太陽電池の全固体化、各種照射条件下でも高い性能を示す多接合型太陽電池の作成、というさらに高い目標を設定して研究を進めていく。太陽電池の高性能化において重要となる、光捕集とエネルギー変換ロスの少ないデバイス作製について重点的に進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった反射率測定ユニットが近日アップグレードされると報告があったため、今年度は購入を見送った。
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次年度使用額の使用計画 |
最新機種がリリースされたら速やかに購入手続きに移る予定である。
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