研究課題/領域番号 |
26708022
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木下 卓巳 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (60635168)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 光エネルギー変換 / 再生可能エネルギー / 有機系太陽電池 / スピン軌道相互作用 / 交換エネルギー / 多接合太陽電池 / Ru錯体 / 相対論的量子化学 |
研究実績の概要 |
本研究では色素増感太陽電池の大幅な広帯域化を実現するために、スピン反転励起のメカニズムの解明と、広帯域・超高効率色素増感太陽電池の実現へと展開するためのデバイス設計を確立することが目的である。 今年度はこれまで開発してきた広帯域光電変換を駆使し、多接合太陽電池における更なる高効率化を目指し金属錯体の構造と物性制御及び、多接合化により高効率化という2つの観点で研究を進めた。 金属錯体の物性面では、前年度までに明らかにしてきた金属錯体の単結晶X線構造解析結果に基づき、スピン交換エネルギーの大きさと金属-配位子間の結合距離に関する考察を行い、ホススフィン配位子によるMLCT遷移の交換エネルギー制御が行えることを明らかにした。 広帯域色素を用いた多接合セル開発においては、短波長領域のエネルギー変換においてポテンシャルロスが起こり易いため、コバルト錯体系電解液に着目し、溶解性と安定性に富んだ新規電解質を開発した。電位の調節幅及び光吸収帯の観点から、短波長セル用色素としてPush-Pull系色素に着目し開発を進め、置換基の構造制御で電位調節を行うことによってコバルト錯体系電解液で良好なパフォーマンスを得ることに成功した。また、短波長セルと広帯域セルとの多接合化を行うため、電流マッチングに対するシミュレーションを行った。その結果、これまでの研究から、4接合の色素増感太陽電池が作成可能であることを見出してきていたが、接合数の増加に伴い光電流の向上が課題となっていた。今回の改良に伴い光電流を7mAcm-2程度まで向上できることを明らかにした。中間帯域の光吸収及び電解液の調節により15.2%のエネルギー変換効率が得る事に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は長波長色素を用いた多接合セルの高効率化について研究を進める予定であったが、当初の計画以上の成果が得られた。 色素の励起状態の制御について、昨年度までに得られた単結晶X線構造解析の結果を更に詳しく検証し、金属-ホスフィン配位子間の結合長により交換エネルギーの制御が可能であることをシミュレーション上で明らかにした。そこからスピン軌道相互作用の大きさに影響を与えていることを明らかにした。一方、色素増感太陽電池の多接合化に関するデバイス設計を進め、4接合デバイスの短波長側でのポテンシャルロス低減と、光電流ロスを減らしエネルギー変換効率の向上に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題では当初目標として、スピン反転励起の起源解明と制御、酸化チタンへの電子移動の最適化、及び広帯域色素を用いた高効率多接合セルを挙げていたが、これまでに当初の計画以上の成果が得られている。今後は、多接合太陽電池のデバイス構造の最適化及び広帯域色素増感太陽電池の全固体化に挑戦し、高効率化・高性能化に向けた研究を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画で想定された以上の成果が得られたため、今年度は成果をまとめ、翌年度に学会等で発表を行う予定である。
|