本研究課題では当初目標として、スピン反転励起の起源解明と制御、酸化チタンへの電子移動の最適化、及び広帯域色素を用いた高効率多接合セルを挙げており、これまでに当初の予想以上の成果が得られた。今年度はさらに発展的な研究として、金属錯体色素の電子構造の解析とデバイスの全固体化について研究を進めた。以下に今年度の研究成果の概略を示す。 今年度は、①スピン反転励起を示すRu錯体色素の電子構造と励起状態の解析、②太陽電池のデバイス構造の最適化及び広帯域色素増感太陽電池の全固体化に挑戦し、高効率化・高性能化に向けた研究を進めた。①については、スピン反転励起を示すRu錯体色素の単結晶X線構造解析を行い、Ru-配位子間の結合距離と交換エネルギーに与える影響について調べたところ、光学測定の実験値と良い一致を示すことが明らかになった。また電子密度解析から、Ru付近の電子密度とスピン軌道相互作用との関係について相関が見られた。一方②については、太陽電池デバイスの全固体化に向けた取り組みとして固体状態での色素の吸収スペクトルの長波長化に取り組んだ。その結果、強いドナー性を有するホスフィン配位子をもつRu錯体で長波長まで広がる分光感度特性を示すことが明らかになり、従来の広帯域増感Ru錯体色素(DX1)に比べて100nm長波長まで分光感度を拡張することに成功した。またそれを用いた全固体型太陽電池を作製したところ1umの近赤外領域まで広がる光電変換を示した。広帯域全固体型デバイスとして初めて近赤外光電変換を実現した。
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