本年度は、昨年度までの知見を基に、近赤外色素シリコンナフタロシアニン(以下SiNc)、ヘプタメチン系色素(以下Cy7)やジピロメテン系色素(以下TBD)を有機高分子に複合化させ、有機-無機ハイブリッド型光音響撮像法用腫瘍造影剤を創製し、その造影能を評価した。SiNcを複合化した造影剤は、他の色素を複合化した造影剤よりも強い光音響信号を発し、臨床利用される血管造影剤 インドシアニングリーンの2倍の信号強度を発した。Cy7やTBDを複合化した造影剤も、信号強度はおのおの1.4倍、1.8倍増幅され、複合化材料の有用性を示した。これらの造影剤のうち、SiNcおよびCy7を複合化した造影剤はミセル型自己集合体を、TBDを複合化した造影剤はベシクル型自己集合体を形成した。この集合化様式の違いは、腫瘍集積性に影響を与え、ベシクル型自己集合体は18%ID/g(tumor) (腫瘍1gあたり、投与した造影剤のうち18%が蓄積したことを示す)と他の二種類より効率良く腫瘍に集積することを見出した。このように実用化に値する高い性能を有する造影剤開発に成功し、この成果はBiomacromolecules誌に掲載された。 本課題推進中に、細胞共存下でも弱酸性環境に応答して発光するpH応答性色素の開発に成功した。弱酸性環境の腫瘍だけを可視化できると考えられる。この色素を有機-無機ハイブリッド型造影剤に適用することで、腫瘍のみを可視化できる造影剤の開発につながると期待される。なお、本成果は特許として2016年度に公開され(特開2016-160194)、現在論文投稿中である。 有機-無機ハイブリッド光音響造影剤材料として、炭素クラスターに注目し、カーボンナノチューブとカーボンナノリングの複合化に成功した。本成果は現在論文投稿中である。水溶性官能基の修飾により、生体に適用可能な造影剤として活用が期待される。
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