研究課題/領域番号 |
26709005
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米谷 玲皇 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (90466780)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 波長計測 / プラズモニクス / ナノメカニカル振動子 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、光通信技術の大容量化に資する波長計測ナノメカニカル素子の創出である。サブpmの波長分解能で光の波長を計測することを目標としている。 現在のところ、ナノ機械振動子上にプラズモニック構造を配置し、プラズモニック構造により照射される光の吸収を制御、波長依存させ、光吸収により発生する熱によるナノ機械振動子の共振変化を読み取ることが、有効な波長計測原理になると考えている。そのため、本年度は、超高分解能な波長計測達成のキーの一つとなるプラズモニック構造による光吸収の波長依存制御に関する研究を重点的に進めた。具体的には、まず厳密結合波解析法を用いた解析的なアプローチにより、特定波長において吸収ピーク,大きな吸収率を有する構造体の検討を行った。結果として、Au薄膜上に特定の幅のAu/SiO2多層構造を配置したAu/SiO2/Au構造体により、任意波長において光吸収を誘起可能であることを見出した。加えて、数値計算により獲得した知見をもとに構造体を設計し、その作製,光学特性評価を行った。本研究で作製した構造体は、幅347 nm, 及び746 nm のAu/SiO2多層構造体を有する光学構造体である。なお、上層のAu層,中間のSiO2層,下層のAu層の厚さは、それぞれ40 nm,80 nm, 100 nmとした。光学特性を評価した結果、幅347nmの構造体では1085 nmの位置に、幅746 nmの構造体では1307nmの位置に吸収ピークが観測された。この結果は、Au/SiO2多層構造体の幅は変えることにより、吸収ピーク波長の制御が可能であることを示している。Au/SiO2/Au構造体は、ナノメカニカル素子を利用した波長計測において有効な構造体であるといえる。このように、本提案の光波長計測に必須のプラズモニック構造体の設計指針を構築するとともに、その機能性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当年度においては、Au/SiO2/Auからなるサンドイッチ型のプラズモニック構造体のAu/SiO2多層構造の幅を定めることにより任意波長位置で光吸収を起こすことができることを見出すとともに、実際に構造体を作製し,その機能性を実証した。平成26年度の重点課題としていた光吸収制御のためのプラズモニック構造作製の指針構築とその機能性評価について、当初の目標は達成したといえる。また、本提案の構造体は、Au/SiO2/Au構造体の各々の厚みを一定に保ったまま、その構造体の幅を変えることのみで吸収波長を任意に指定できる構造体である。そのため、異なった吸収波長を有する構造体を集積,アレイ化する際、半導体製造プロセス技術で極めて作製しやすい構造体であり、本研究目標の波長計測素子はもとより光学フィルター等様々な光学素子への応用が期待される。このように、当初計画の設計指針構築,機能性評価が達成されたこと、本研究推進で見出した構造体が様々な素子へ応用が期待されることから、本研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度の獲得した光吸収構造体の設計指針に関する知見をベースに、継続して光学特性の機能最適化を進めていくことを予定している。具体的には、1.5 μm帯の光に対しての吸収特性の最適化を進める。また、超高分解能な波長計測達成のもう一つの鍵となるナノ機械振動子の高Q値化を行う。これまでの研究で、ナノ機械振動子に歪を印加することによりQ値が劇的に改善されることを確認しており、この歪印加手法が高Q値ナノ機械振動子作製に対し有効であると考えられる。しかし、未だそのQ値向上のメカニズムは不明瞭であり、本研究では共振特性と歪量との関係性,或は歪により影響を受けると考えられる微細構造との関係性などについて詳細に評価進める。また、歪印加されたナノ機械振動子のQ値について、雰囲気環境の影響についても評価を行う。これらの評価を通し、歪とQ値の関係性を明瞭化することにより、ナノ機械振動子の一層効果的な高Q値化を目指す。
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