研究課題/領域番号 |
26709007
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
田川 義之 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70700011)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | マイクロジェット / 医工学応用 / レーザー誘起衝撃波 / 液滴浮遊 / 撃力 |
研究実績の概要 |
研究代表者が発見した超音速マイクロジェットの生成・制御手法を確立し,医工学応用へ展開することを目的として,研究を進めた.まず,マイクロジェットを生成するために不可欠である衝撃波挙動を詳細に解明するため,可視化手法を開発した.その結果,Background oriented schlieren法により世界で初めて水中衝撃波の非接触定量計測に成功した(Yamamoto et al, 2015, Exp Fluids).さらに,水中圧力波がジェット生成に与える影響について実験的に調査した.水中でキャビテーション気泡が発生した場合,圧力波が大幅に抑制され,ジェット速度が最大2倍の速度を有することをつきとめ,そのメカニズムを明らかにした(Kiyama et al, 2016, J. Fluid Mech.). また,これまでマイクロジェット生成のためにレーザーを用いてきたが,装置が大型になることを避けるため,新しい手法を開発した(大貫&田川,2015, 混相流).この新手法によって,これまで困難とされてきた高粘度の液体も射出できることを示し,産業界からの注目を集めた.この新技術は特許を申請している. 無針注射への応用を前提に,マイクロジェット体積の決定メカニズムを調査した.その結果,レーザー誘起気泡の体積と密接な関係を明らかにした.両者はナノリットルレベルで関係しており,今後の実機開発へ役立つ知見を得た(河本ら,日本機械学会論文集,投稿中).最後に,マイクロジェットを用いた無針注射において問題となる,ジェット衝突後の液滴の飛散に関して知見を深めるために,移動壁面上を浮遊する液滴に関して調査を行った.その結果,液滴底面のわずかな変形によって発生する潤滑圧力によって液滴の浮遊現象が生じていることを初めて実験的に明らかにした(斎藤&田川,日本機械学会論文集).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終的な目標は,超音速マイクロジェットを利用した革新的医工学マイクロ技術を創生することである.この目標に対し,四年計画を立てている.まず前半2年間でマイクロジェットの生成原理の解明・生成手法の確立を中心に研究を進め,後半2年でマイクロジェットの医工学応用に不可欠な知見を得る計画である.現在までの2年間の最終目標に対する達成状況はおよそ2分の1であり,おおむね順調に進展している.具体的にはマイクロジェット生成原理を明らかにするとともに,新しいマイクロジェット生成手法を開発した.またマイクロジェットの体積決定メカニズムなど医工学応用に必要なマイクロジェット制御に必要な知見を得ている.本年度の主な成果は以下である. ・マイクロジェット速度に対するキャビテーション現象の影響を初めて明らかにした(Kiyama et al, 2016, J. Fluid Mech.).これによりマイクロジェット速度制御に重要な知見を得,今後の実機開発に向けた研究の指針を得た. ・医工学応用を念頭に,新しいマイクロジェット生成手法を開発し,そのメカニズムを実験・数値計算両面から調査した.その結果,新しい生成手法の原理をほぼ明らかにした(大貫&田川,2015, 混相流). ・マイクロジェットの体積制御手法に関して知見を得た.マイクロジェットの体積がナノリットルレベルで決定されているメカニズムの概要を明らかにした(河本ら,日本機械学会論文集,投稿中) ・マイクロジェットの軟質材料に対する貫通・衝突挙動を調査した.軟質材料の硬度と貫通の可否の関係を実験的に明らかにした.また液滴の非接触現象についての流体力学的メカニズムを実験的に初めて明らかにした(斎藤&田川,2015,日本機械学会論文集)
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今後の研究の推進方策 |
研究期間前半の現在までの2年間はジェットの生成手法・生成メカニズムに関する研究を中心に行ってきた.今年度からは,医工学応用へ向け無針注射およびジェットメスへの展開を念頭に,軟質材料に対するマイクロジェットの貫通・衝突挙動の解明を中心に研究を進める.また本学農学部教員あるいは共同研究先企業から皮膚のモデル材料などを提供してもらうことにより,実機に近い技術の開発を進めていく.具体的には,ジェットによる軟質材料の切除・貫通・衝突プロセスの解明,マイクロジェットの高精度な注入体積手法の開発を行っていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度主な物品としてあげていたパルスレーザーを購入しなかったためである.これは現有のシステムを工夫することにより,パルスレーザーがなくても実験を効率的に進めることができたためである.具体的にはパルスレーザーを用いない手法によるマイクロジェット新生成手法が確立したためである.
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次年度使用額の使用計画 |
パルスレーザーの代替となるマイクロジェット新生成手法用の装置関連品および新しい軟質モデル材料の購入費など,研究をさらに効果的に進めるための費用に充てる.
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