研究実績の概要 |
前年度に分子流体力学の視点からBrown運動に関してLangevin方程式の枠組みを超える現象を発見した(J. Chem. Phys., vol.142, 104301, 2015)ことを踏まえ,本年度はさらに原子・分子レベルの流動抵抗が従来のマクロな流体力学におけるStokesの抵抗則と差異を生じうることを発見し,その法則性を明らかにした(J. Chem. Phys., vol.144, 094503, 2016).この知見は,水中のイオン流動など多くの場面に関係するため,電気泳動,電気浸透流,熱泳動,イオン液体,Paulトラップ,流動抵抗低減技術,一分子計測などの多様な技術開発に寄与し得るものである. 一方,当該年度にはTIRF顕微鏡技術で観測した固液界面近傍におけるssDNA分子のBrown運動に関する一分子追跡データから吸着支配の挙動とそうでない分子の拡散挙動を識別する手法を開発した.固液界面近傍のBrown運動では,吸着支配な個体が含まれていると単純に全てを平均しては著しく拡散係数を小さく評価することになる.現実的には吸着を完全に防ぐのは極めて困難であるが,吸着している個体の識別は容易ではない.なぜなら,吸着している分子も熱揺らぎにより僅かな変位を時々刻々示すこともあり,吸着していながらも継続的に拡散している場合すらあるからである.さらに,吸着状態と非吸着状態との間を遷移することもあり,吸着していない分子も時として小さな変位を示すこともある.これに対して,新しい手法(Jpn. J. Appl. Phys., vol.54, 125601, 2015)では,指標や尺度を変え条件を的確に定義することにより,事前の知見や閾値を用いずに軌跡データ群から吸着支配の挙動とそうでない表面近傍拡散を定量評価することを可能にした.
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