研究課題/領域番号 |
26709010
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
村上 陽一 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (80526442)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロ熱工学 / 光エネルギー高効率利用 / 光応用工学 / イオン液体 / 分子回転ダイナミクス / 分子間エネルギー移動 / 三重項-三重項消滅 |
研究実績の概要 |
本研究は,太陽電池や光触媒等の光エネルギー変換で現在未利用な「閾値波長より長波長側の光」を利用可能な波長の光へ変換する「光アップコンバージョン(UC)」に関する.研究代表者はイオン液体を用いたUC試料を開発し,従来研究での試料における可燃性や揮発性等の問題を解決している.さらに続く研究から,UC効率のイオン液体依存性が生じている過程を発見し,これに対し仮説提案を行っている.本研究は,この点の検証を通じ効率支配メカニズムに関する基礎理解の獲得を行い,高効率で応用に適する形態の光アップコンバーターの創出を行うことを目的としている.
本年度はまず,初年度に設計開発を行った「溶質分子回転計測の実験システム」を完成させ,無事,運用開始を実現した.続いて,上記仮説を提案した研究代表者らの論文で用いられた全ての試料について,発光分子の回転ダイナミクスのイオン液体種類および温度への依存性を計測し,解明した.具体的に,UC量子効率と発光分子の回転ダイナミクスとの間に明確な正の相関を発見した.これは提案したメカニズムを支持する結果であり,試料の設計指針について基礎的な理解をもたらす発見といえる.
また,交付申請書に記載の通り,本年度は新規試料の探索と創出にも取り組んだ.最も顕著な成果として,応用に不利となる試料の流動性の抑止を達成しながら,試料の光学透明性と不燃性を全く損なわない,かつ,試料内部の溶質分子拡散性を全く犠牲にしない,ゲル形態のUC試料を開発した.本成果は,本年初頭に出版された学術論文(Journal of Physical Chemistry B, vol. 120, pp. 748, 2016)の掲載号の表紙を飾る成果となり,また新聞を含む様々なメディアに取材・公表され,注目を集めるものとなった. 以上のように,本年度は本課題の目的と狙いに関して幾つか重要な達成をなすことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上の「研究実績の概要」に記載したように,本年度は,本課題の目的と狙いに関する重要な進展が得られた.これにより,課題初年度(H26年度)における当初計画の遅れを十分に取り戻すことができた. すなわち,現在までの進捗状況としては,申請時点からの多少のスケジュール等の修正や変更はあったものの,ほぼ計画通りに進捗している状況と言える.また,新規試料の探索・創出の取り組みについては,本年度(H27年度)から本格化させることができており,下記の「今後の研究の推進方策」に記載した最終年度(H28年度)の実施方針へ繋がってゆける進展状況となっている.
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は本課題の最終年度にあたる.今後の研究の推進方策の詳細は,既にH28年度の交付申請書に記載した通りである.今後(すなわちH28年度)の方策の概要は,以下の通りである. 本課題の表題の通り,これまで得た知見および成果を土台に,現状からの効率向上を追求をしながら,新規な試料創出を追求する.具体的に, 1) 発光分子との溶質-溶媒相互作用によって発光分子の回転ダイナミクス制御の機能を発現するイオン液体以外の流体の探索を行う.合わせて,本課題中で既に完成し良好に運用がなされている「溶質分子回転計測の実験システム」を使用して,その微視的なダイナミクス・キネティクスに関する研究と,UC発光特性との相関の研究とを組み合わせ,微視的性質とアップコンバーターとしての動作性質との間にある相関の理解を深めてゆく. 2) 新規な発光分子自体の工夫と探索を行う.これは一部,共同研究関係にある企業との連携を通じて実施する計画である.その一部には,研究代表者が考案,選定した発光分子を共同研究企業との議論・打ち合わせを通じて提案し,独自に合成された発光分子類を用いて新規な試料創出を行ってゆくことを含む. 以上から,本課題目的の効果的な達成を目指してゆく.
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