基礎物理定数のひとつである気体定数は現在、気体の音速測定結果から決定した値が採用されているが、他の独立な方法による測定結果との比較検証は未だに出来ていない。一方、工学計測標準研究部門における近年の研究で密度の計測技術は信頼性が格段に向上しており、気体の密度計測から6桁レベルの相対不確かさで気体定数を決定する可能性が見えてきた。本研究では8桁の水準を実現しているシリコン固体密度標準を気体の密度計測に応用し、6桁レベルで気体定数の正確さを検証することを目的とする。平成28年度は,これまでに製作した気体密度測定装置および温度制御用デュワー,平成26年度に導入した気体圧力絶対測定のための重錘型圧力天秤を組み合わせ,相対不確かさ1 ppmレベルを有する気体密度測定システムを構築した。測定温度は,絶対温度の不確かさが最も小さい,水の三重点(0.01 ℃)とした。測定流体については,アルゴンや窒素等,複数の不活性ガスを検討したが,第2ビリアル係数が第一原理から厳密に求められているヘリウムを採用することとした。ヘリウムガスの平均モル質量を測定する環境は整っていないが,自然同位体比のヘリウムに関する同位体組成は十分に小さい不確かさで測定されている。これらの測定条件における気体密度の測定不確かさを評価したところ,現在の気体定数の不確かさと同等の,1 ppmを達成可能であることを明らかにした。一方,圧力の絶対測定の不確かさは,重錘型圧力天秤に用いられているピストンシリンダの断面積の校正不確かさの制約から,数十ppmのレベルである。気体定数の決定には,圧力の絶対測定における不確かさの低減が課題となることが明らかとなった。また,ヘリウムのモル質量に関しては,同位体組成の不確かさへの影響は少ないものの,ガスサンプルに含まれる不純物の影響が大きく,これも今後の課題として指摘できる。
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