研究課題/領域番号 |
26709015
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
土肥 徹次 中央大学, 理工学部, 准教授 (20447436)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | MEMS・NEMS / マイクロコイル / 核磁気共鳴画像(MRI) / マイクロ・ナノメカトロニクス / マイクロセンサー |
研究実績の概要 |
平成27年度は,細胞計測用マイクロ立体コイルの試作法の改良と,勾配磁場発生用コイルの試作についての研究を進めた. 具体的には,平成27年度は主にマイクロ立体コイルの試作法の研究として, 3Dプリンタで試作した構造とMEMS試作技術を組み合わせることで,複雑な立体構造を持ったマイクロ立体コイルの試作法の改良を行った.MRI信号計測用のマイクロ立体コイルに求められる性能として,計測対象に適したできるだけ小さい形状であり,その上で巻き数が多く,低抵抗であり,さらに寄生容量が大きくなり過ぎないように設計する必要がある.そこで,3次元螺旋段差構造への選択的堆積によって,低抵抗かつ低寄生容量な双円錐型マイクロ立体コイルの試作を実現した.この試作手法によって,コイル平均直径6 mm,長さ 10 mmの様々なコイルを試作した.線幅1.0 mm,1.5 mm,2.0 mmの10巻のコイルの抵抗値は,0.659 Ω,0.545 Ω,0.418 Ωとなり,線幅1.5 mmの巻き数8巻,10巻,12巻のコイルの寄生容量はそれぞれ0.575 pF,0.606 pF,0.671 pFとなった.試作コイルによりMRI画像計測実験を行った結果,約120という非常に高いSNRを実現し,直径約5 mmの果実を100×100×200 μm3の画素サイズで撮像し,内部確認可能なMRI画像を取得することができた. さらに,高分解能化を進めるために勾配磁場の向上のための平面型勾配磁場マイクロコイルの改良も進めた.平成27年度は試作した平面型勾配磁場マイクロコイルにてMRI画像計測を実現し,計測画像から勾配磁場恋率を算出した所,従来の手巻きにより試作していた勾配磁場コイルと比較して,20倍近く性能向上を実現することができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,平成26年度に試作した細胞計測用マイクロ立体コイルと勾配磁場発生用コイルのプロトタイプについて,平成27年度から試作コイルの特性向上目指した改良を進めることを予定であった.このうち,細胞計測用マイクロコイルの試作手法として,ねじ形状への真空蒸着によるコイル試作手法を改良することで,3次元螺旋段差構造への選択的堆積による低抵抗かつ低寄生容量な双円錐型マイクロ立体コイルの試作を実現した.これにより,計測対象に適した大きさで,巻き数が多く,低抵抗で,さらに寄生容量が大きくなり過ぎないコイルの試作を実現することができた.また,この試作手法により様々なコイルを試作し,コイル性能の向上についての理論的な検討と,理想的なコイル実現へ向けた検討を行うことができた. 一方,勾配磁場発生用のコイルとして,平面型勾配磁場マイクロコイルの改良を進めることができた.3Dプリンタで試作した骨組み構造とMEMSプロセスにより試作したフレキシブル基板を組み合わせて構造を試作することで,巻き数が多く,高精度な勾配磁場コイルを試作することができるようになった.これにより,勾配磁場効率を大幅に向上することができたが,勾配磁場の直線性の向上や,画像計測中に破損しない強度を持たせる点については,対策の検討に留まってしまった.これは,平成27年度に導入予定であったコンパクトMRIの導入が,大学側が重量物の導入に不慣れであったため大幅に遅れてしまったことが原因であり,コイル試作から実験改良のサイクルの迅速化を行えなかったためである.しかし,平成27年度末にコンパクトMRIを導入することができ,また,試作中のマイクロコイルによる画像計測実験を行う体制を整えることはできたため,平成28年度以降には試作改良プロセスの迅速化が期待でき,大幅なコイル性能向上が期待できる.
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度は,主に平成27年度に導入した2.0 TのコンパクトMRIを使用して,試作中のマイクロ立体コイルの性能向上と勾配磁場マイクロコイルの性能向上を進める予定である.マイクロ立体コイルは,MRI信号受信回路と接続し,MRI用標準試料の画像計測からSN比を求めることでコイル感度を評価する.ここで,計測画像のSN比を向上させるため,スケール効果による検討を行い,巻き数がより多く,抵抗値がより低く,寄生容量をできるだけ抑えた3次元構造を持ったマイクロ立体コイルの実現を目指す.この際,導入したコンパクトMRIを使用することで,コイルを試作し,電気特性・画像計測を行い,結果をフィードバックした改良コイル試作の流れの大幅な迅速化が期待できる. また,計測領域の分解能向上のため,勾配磁場発生用のコイル改良も進める.勾配磁場発生用のコイルは、分解能に応じて勾配磁場強度を強化する必要があるため,計測領域や計測分解能に応じたコイルを試作する.ここで,平成28年度は,主に勾配磁場コイルの機械的強度の向上を中心に改良を進め,それに併せて,コイル巻き数増加による勾配磁場強度の向上と,各軸コイル間の電気的な絶縁の安定化を進める.これらの改良を進めることによって,安定して強い勾配磁場強度でのMRI画像計測を可能とすることを目指す.
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度にコンパクトMRIを購入したが,重量物の設置を伴うために大学側の受け入れ態勢が整わず,年度末に導入することになってしまった.そのため,コンパクトMRIを円滑に使用できるようにするための環境整備や必要物品の購入を平成27年度中に行うことが間に合わなくなってしまったため.
|
次年度使用額の使用計画 |
コンパクトMRIの環境整備に必要な物品や,使用にあたって必要となる消耗品を購入する.
|